恋愛小説の旗手と呼ばれる市川拓司さん(53)。小説『いま、会いにゆきます』(2003年刊行、通称『いまあい』)をはじめ、映画化された3作の累計が250万部を超すベストセラー作家だ。10年ほど前に自身が発達障害の一つ、知的障害を伴わない「アスペルガー症候群」(「自閉症スペクトラム」と総称)と知った。
雑誌の取材を受けていた時、発達障害に詳しいライターの品川裕香さんから「あなた、アスペルガーの人がよく使うワードをさっきから連発しているから、調べてもらったら」と言われてね。勧められたメンタルクリニックを受診すると、医師から「典型的なアスペルガーの症状を示している。ただし、市川さんは社会的にも成功しているから、とくに診断書を書いたりはしませんよ」と言われました。
「ああ、やっぱりね。なあんだ」っていう気分でしたよ。だって僕は子どもの頃に先生から、「教師生活始まって以来の問題児」と嘆かれたぐらいだから。手のつけられない多動児で、毎日のように高いところに登っては飛び降りていました。それに、ものすごい「多弁」で、相手が聞いていなくても一人でしゃべり続けていたし。たとえ授業中でもね。先生から頭の形が変わりそうなほど叩かれました。
●度を超えた「妄想力」
市川さんの新刊『ぼくが発達障害だからできたこと』には、作家としていい思いができたのも、「『障害』があったから」「すごいな『障害』」と、発達障害を肯定的に描いている。
「常識」に縛られないからこそ、飽きずに、懲りずに夢を見続けることができるのかもしれない。僕は小学校時代に「バカタク」と呼ばれていたけれど、卒業アルバムの将来の夢に「作家になること」と書いていました。結婚した頃は、「僕の小説がハリウッドで映画化されたら」なんて当時としては途方もない夢を、奥さんと2人で一晩中語り合ったりしていました。
2作目の小説『いま、会いにゆきます』は、出版の翌年には映画化され、その後もアジア、ヨーロッパ、南米……と世界中で読み継がれるようになるんですからね。僕の度を超えた「妄想力」は、結構あなどれません。
「純度100%」と形容される恋愛小説は、市川さんならでは。デビュー後、「市川拓司小説という新たなジャンルが生まれた」「同業他社なし。競合作家なし」などと評され、『いまあい』後には純愛ブームが起きた。
「違い」は武器にもなる。変人って、埋没していないってことでもあるでしょ?僕はそれも悪くないと思えてね。