●医学を外から俯瞰する

 企業からの寄付を獲得するのも学生たちだ。安易に卒業生を頼ると「自分のお金でやりなさい」と諭されることもあり、簡単ではない。新規開拓も必要で、今年の渉外担当、岡直幸さん(24)は、

「飛び込み営業に近いかたちで電話し、『まずは顔を合わせて活動について説明したい、知っていただけるだけでいい』と約束を取り付けました」

 交渉を通じて、社会性も養われる。医学部助教の藤田成人医師(30)はIMAの活動で、

「医学を一歩外から眺め、俯瞰する視点を得られた。ITやロボット技術の進化など変化を続ける社会の中に、医者の仕事というものを位置づけられるようになりました」

 慶應医学部を「看板」たらしめているのは、IMAだけではない。

 例えば、高齢化社会で増え続ける認知症。一般にアルツハイマー型の認知症では、症状が出る10年以上前から、脳内で原因となる物質の蓄積や細胞の変化が始まっているとされている。それを、いつから治療すべきなのか。本人の意思決定はいつ、どのようになされるべきなのか。

 慶應医学部はこんなテーマの研究を、経済学部、法学部と合同で続けている。手術ロボットの分野では理工学部、生命倫理の問題では人文系の学部と連携し、セミナーも開く。

「特定の方向性に引っ張られないバランス感覚が、慶應のいいところ」(前出の三村教授)

 医療系以外の研究分野と手を携える文化があればこそ、時代の波にのまれない。来年は、創立100年を迎える。

(編集部・鎌田倫子)

【基礎DATA】
所在地:東京都新宿区
開設:1917年
定員:113人
初年度納付金:379万円
就職先:―
著名な卒業生:近藤誠(医師)、向井千秋(元宇宙飛行士)、水島広子(精神科医)
※基礎データはすべて、『2017年版大学ランキング』、各大学の公式サイトなどから

AERA 2016年6月6日号