「サンダースも好きだよ。トランプとサンダースの支持者は、アウトサイダーが好きという点で重なっている。でも、共産主義者が大統領になるのは許せない」

 確かに、クリントンを含むワシントンの支配層を徹底的にやり込め、サイレントマジョリティーの心をつかんでいる点で、両候補者は似ている。

投開票日の19日、何百、何千もの有権者が朝から晩まで投票所に詰めかけ、列をなした。民主党予備選の結果は、クリントンが得票率58.0%だったのに対し、サンダースは42.0%にとどまり、支持率の差を縮めることができなかった。一方、共和党はトランプの得票率が60.4%と、2位以下の候補者を大きく引き離した。

しかし、20年以上ぶりにニューヨーカーを熱狂させた予備選は、さまざまな禍根を残した。

支配層への攻撃を繰り返し、庶民の献金だけで戦う「正義の人」サンダースと、支配層が築いてきた国家を、米国人だけの国につくり直すという「愛国主義者」トランプ。今までになかった風変わりな候補者が、多くの有権者の心を奪ってしまった。指名候補が決まっても、民主・共和党内の統一が危うくなるとの懸念が高まっている。

選挙事務所を手伝った経験がある不動産ブローカーのトミー・ヘインズは、こう指摘する。

「そもそも、トランプもサンダースもアウトサイダーだ。でも、二大政党制には、アウトサイダーを扱うシステムがないから、2人とも既存の党から立候補しながら、非伝統的な有権者をとりこにした。合衆国憲法は素晴らしいけれど、米国は変わってしまった。今までのシステムで選挙を続けるのは、おかしいのではないか」

 今年の米大統領選では、既存システムの中で見過ごされてきたサイレントマジョリティーが立ち上がり、米社会を揺さぶっている。(文中敬称略)(ジャーナリスト・津山恵子)

AERA  2016年5月2日-9日合併号より抜粋