「コーヒーでも飲みながら話そうか?」(※イメージ)
「コーヒーでも飲みながら話そうか?」(※イメージ)

 ある仕事の分野で、その業界人が話す「ギョーカイ用語」は、実は英語にもある。

 これまでは「ギョーカイ英語」といえば金融。だが近年はITのほか、生産拠点を海外に移したため、技術指導で海外の工場に行く人が増えた製造業でも英語が必須。重宝されているのが『世界中で通じる! 製造現場の英語』だ。

 手帳サイズでカバー付き。作業服のポケットに入る。基本的な文の作り方に続き、「研磨」や「試運転」のほか、「山崩し」(生産量などの平準化)「チョコ停」(短時間ラインを止める)など、素人には意味不明の業界用語がずらり。従業員との会話、工場内の標識、「50語でビシッと決まる簡単スピーチ集」、お悔やみの文例まで網羅している。

 驚くのは従業員への気遣いだ。「注意」の文例はソフトなものから厳しいものまで3段階。「これが成功すれば出世もできるぞ」と励ましたかと思うと「髪切った? それいいよ」とほめ、「コーヒーでも飲みながら話そうか?」と相談に乗る。現地でうまくやっていこうと奮闘する姿が見えて、胸が熱くなる。

 外国人観光客の急増で出版が相次ぐのは、接客英語の本。『みんなの接客英語』では、

「『LINE毎日英会話』を通じて接客業の人たちに呼びかけ、知りたいフレーズを送ってもらって作った」

 と編集者の牛山泰崇(うしやまやすたか)さん。飲食、販売、宿泊などをカバーし、外国人が無料か有料かととまどう居酒屋の「お通し」問題の解決法も提案している。

 異色なのは、医師や看護師に好評の『トシ、1週間であなたの医療英単語を100倍にしなさい。できなければ解雇よ。』。小説仕立ての単語本で舞台はなぜかニューヨーク。ポストドクターのトシがスタイル抜群のメガネ美人ソフィー先輩の手ほどきで、専門用語を覚えていく。

 業界英語から時代が見えた。

(ライター・仲宇佐ゆり)

AERA  2016年2月29日号より抜粋