表紙部分には、日常のちょっとした小物をモチーフにした版画があしらわれている。のむみちさんが勤務する東京・池袋の古書往来座の代表・瀬戸雄史さんの作品。掲載劇場各館をはじめ、古書店や喫茶店などで配布している(撮影/写真部・加藤夏子、協力/古書往来座)
表紙部分には、日常のちょっとした小物をモチーフにした版画があしらわれている。のむみちさんが勤務する東京・池袋の古書往来座の代表・瀬戸雄史さんの作品。掲載劇場各館をはじめ、古書店や喫茶店などで配布している(撮影/写真部・加藤夏子、協力/古書往来座)

 東京の名画座ファンなら、大半の人が活用しているという噂の情報媒体がある。どんなデジタルメディアよりも便利で詳細な1枚の紙。それが「名画座かんぺ」だ。

 古書店で働いているのむみちさんは、ある時期から映画館で古い日本映画を見ることにハマり、旧作上映の情報がどこかに集約されることを望んでいた。個々の映画館が発信するチラシやHPは充実していても、まとまったものがない。「じゃあ、私が作ってしまおう」というわけで誕生したのが「名画座かんぺ」だ。

「名画座かんぺ」は、B4の紙がたった1枚。これをちょうど手のひらに収まるくらいのポケットサイズに折りたたんである。創刊は2012年1月。月刊ペースで無料配布している。究極のミニメディアだが、その代わり表裏とも所狭しとビッシリ文字が書き連ねてあり、しかもすべて手書き。新文芸坐、神保町シアター、ラピュタ阿佐ヶ谷、フィルムセンター、シネマヴェーラ渋谷の東京都内五つの名画座と、「その他」として様々な映画館での名画や特集上映などの情報を載せている。

 上映日程とタイムスケジュールは表組み。電話番号や場所など各劇場案内、最近刊行された映画関連本の紹介など、コアな映画ファンにも名画座初心者にも、至れり尽くせりの内容になっている。

「パソコンに弱いので手で書いたほうが速い(笑)。プログラムは急な変更などもあって大変なこともありますが、スケジュール表を作っている時は私の至福の時間です」(のむみちさん)

 出かける時は必ず「かんぺ」を持って家を出るという映画ファンは多いが、音楽家の小西康陽さんもそんな一人だ。

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