市場をゆがめ、銀行の経営を圧迫し、預金者に負担が及ぶ。その発端は1月29日の金融政策決定会合だった。銀行が日銀に預けている当座預金の金利(0.1%)が、2月16日以降新たに増える預金に対してマイナス0.1%になる。

 目的は二つあった。一つは円安誘導。金利を下げ、ドルの金利との差が広がれば円安が進む、と踏んだ。年明け以降の株安に歯止めをかける狙いもあった。

 もう一つは、日銀にたまる銀行預金を市場に押し出すことだ。

 2013年4月、黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は、市場に出回るおカネを倍にすることで「2年後に消費者物価を2%上昇させる」と約束した。ところが、2年経っても物価上昇はほぼゼロ。焦った黒田総裁は14年秋、市場に投入する資金量を年80兆円へと拡大した。

 それでも効かない。なぜか。13年4月初め、銀行が日銀の当座預金に置いていたカネは55 兆円。それが今年2月2日は257兆円に膨らんでいる。日銀がせっせとおカネを送り出しても、市場に出回っていないのだ。

 日銀が銀行から国債を買い上げ、対価として銀行の当座預金に入金する。普通なら、このカネは貸し出しに回る。ところが現状はそうなっていない。国内に資金需要が乏しく、貸したくても貸せない、というのが銀行の弁解だ。注がれたカネは空しく「ブタ積み」されている。

 ブタ積みの背景には、当座預金に市中金利より高い年0.1%の金利が付くこともある。ならば罰金を科して、預金を日銀の外に追い出せ。そうすれば貸し出しは増えるだろう、と日銀は考えた。浅知恵だった。

「貸し先がない」という事情は変わっていない。審査基準を緩くすれば貸し先は見つかるが、融資が焦げ付く危険が高まる。

 結局、カネが向かう先は国債。買いが広がり国債価格は上昇(金利は低下)した。政策の失敗は誰の目にも明らかになった。

AERA  2016年2月22日号より抜粋