正直に言えば、英語のレベルは中国人のほうがずっと上だ。世界中の企業から生産を委託される担当者は日々、各国の顧客と英語で交渉しているのだ。言葉だけではない。色やデザインのトレンドにも彼らのほうが詳しかった。初めての出張でその「差」を思い知らされ、衝撃を受けたと安田さんは言う。

「日本が進んでいるつもりだったけど、中国人のほうがずっと世界で通用するな、と」

 ある時、中国工場の社長が「友達を10人連れてくるから」と食事に誘ってくれた。ビジネスには無関係で、損得なしに来てくれた普通のおっちゃんたち。

「反日デモなどのニュースのせいか、どこか怖いイメージを持っていたけど、おっちゃんたちは中国語と片言の英語で『よく来たなあ』と歓待してくれた。相手によくしてもらうと、僕もお返しをしたくなる。やっぱり、一対一で誠実に付き合うことが何より大事やと思いました」

AERA  2015年11月9日号より抜粋