第一織物第一織物が織り上げる生地に使われるのは、1万メートルで約17グラムという極細の糸。出来上がった生地は北陸の染め工場に運ばれて染色される(撮影/藤岡みきこ)
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第一織物
第一織物が織り上げる生地に使われるのは、1万メートルで約17グラムという極細の糸。出来上がった生地は北陸の染め工場に運ばれて染色される(撮影/藤岡みきこ)
福井県坂井市はおろし蕎麦で有名。蕎麦の花の向こうには永平寺のある山が見える(撮影/藤岡みきこ)
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福井県坂井市はおろし蕎麦で有名。蕎麦の花の向こうには永平寺のある山が見える(撮影/藤岡みきこ)

 基幹産業として日本経済を支え、世界を席巻した繊維産業が、その地位を失って久しい。しかしいま日本各地には、世界中のラグジュアリーブランドから絶大な信頼を得るファクトリーが点在する。「その工場でしかできないこと」があることが強みだ。

 福井県坂井市。田畑に囲まれたこの街に、生産量の7割以上を海外に輸出する実力派がいる。第一織物だ。

 北陸はナイロンやポリエステルなどの合成繊維の産地だが、第一織物が得意とするのは、極細の合成繊維を超高密度に織って生地にする「技」だ。

 社長の吉岡隆治さん(64)によれば、

「着ているのがわからないくらい薄い。それでいて、風を通さない強さを持っている。そんな生地をつくりたかった。この思いが当社の根本にあります」

 薄くてしなやか、そして強い。そんな高機能な生地を、イタリアの高級ダウンジャケットブランドのモンクレールや、アメリカのアウトドアブランド、パタゴニアをはじめ、数々の海外ブランドが求めている。

 90年代までは、販売は日本国内がメイン。環境を激変させたのは、08年のリーマン・ショックだ。大顧客だった大手商社が合繊市場から撤退。まとまった量の生地を受注する仕事が減って、第一織物も危機にさらされる。しかし、自社販売に切り替えたことでチャンスが芽生えた。

 商社からは「高価な合成繊維は海外では売れない」と言われていたが、国内で需要が減ったのなら、海外に売るしかない。そう考えて、社長自ら、海外ブランドに売り込みをかけた。

「質は落とせない。大量生産すれば価格が下がるような商品を売りたいわけでもなかった」(吉岡さん)

 自信はあった。なぜなら、合成繊維といえども生地に「独自性」があったからだ。吉岡さんは言う。

「製造工程の機械化は進めてきましたが、うちの生地は単なるオートメーションではできない。人間の技が工程に入っているから、他社には簡単にコピーできません。たとえば、ある布の糸を200本から210本にすれば、強くはなりますよね。でも……」

 通気性はどうか。かえって形くずれを起こすのではないか。求められるオーダーに対し、何度でも試行錯誤を重ねるからこそ、顧客を満足させる生地ができあがる。

 吉岡さんは、「日本人ならではの、微妙なニュアンスをすくいとれること。真摯(しんし)なものづくりを貫けば、日本の技術が生き残る可能性はある」と断言した。

AERA 2015年10月12日号より抜粋