憲法の話というと、すぐに護憲派と改憲派に分類されて、大ざっぱすぎて議論も進まない。そんなんじゃつまらないと思っていたから、口語訳が、ちょっと見方を変えるきっかけや、憲法を考えるきっかけになればおもしろいんじゃないかと思いました。

 飲み会の後、2、3日かけて全条文を口語訳にしてネット上の「2ちゃんねる」の掲示板に投稿しました。例えば第1条はこう。

「この国の主権は、国民のものだよ。というわけで一番偉いのは俺たちってこと。天皇は日本のシンボルで……」

 反響の大きさに驚きました。『日本国憲法を口語訳してみたら』という本になって、これまでに5万6千部も売れたそうです。

 特に好きなのは、前文の最後の部分です。

「俺たちはここにかかげたことを、本気で目指すと誓う。誰に? 俺たちの名誉と世界に!」

 憲法は国民が国家を縛る、立憲主義の基本で、そのことを表している根本的な部分だと思うからです。 憲法の本を書いたけど、実は憲法への思い入れは意外なほどないんです。憲法のゼミに入ったのも、他のゼミの募集がほとんど終わっていたから。いま思えば、憲法に対する思い入れが少ないからこそ、他の人とは違う新鮮な視点を持てて、口語訳ができたんじゃないかなと思います。

AERA  2015年9月28日号より抜粋