500人収容の会場に600人がつめかけた。ロビーでは、三木武夫元首相の妻・睦子氏(故人)が、安倍寛氏について語る映像も流れた。三木氏と寛氏は盟友だった(撮影/編集部・宮下直之)
500人収容の会場に600人がつめかけた。ロビーでは、三木武夫元首相の妻・睦子氏(故人)が、安倍寛氏について語る映像も流れた。三木氏と寛氏は盟友だった(撮影/編集部・宮下直之)
「なんてったって安倍家の本拠地。生きて帰りたい」とユーモアを交え、安倍晋太郎氏の思い出から立憲主義まで縦横に語った小林節氏(撮影/編集部・宮下直之)
「なんてったって安倍家の本拠地。生きて帰りたい」とユーモアを交え、安倍晋太郎氏の思い出から立憲主義まで縦横に語った小林節氏(撮影/編集部・宮下直之)

 吠える憲法学者に万雷の拍手が送られた。安倍晋三首相の地元・山口で開かれた小林節氏の講演会。会場は立ち見も出る大盛況だった。

 アウェーでもやっぱり、この人は怒っていた。

「歴代の自民党政権が積み上げてきた憲法解釈を否定するならば、ふさわしい論拠を持ってこい。論拠がないなら、まずは憲法を改正しろ。いま、どちらも行われずに、立憲主義のルールを無視しようとしているから、安倍政権に怒っているんです」

 壇上から聴衆に語りかけたのは、憲法学が専門の小林節・慶應義塾大学名誉教授。間髪入れずに、こうたたみかけた。

「だってね、憲法は、主権者である国民が権力者に与えた約束なんです。それを権力者が無視するということは、安倍さんが安倍さんじゃなくなって、キムさんになることなんです」

 会場に広がったのはブーイング、ではなく拍手だった。話が国会で審議中の安保法案の具体論に及んでも、小林氏の語りは来場者の心をつかんで離さない。自衛隊の活動範囲が広がっても防衛予算は増えないとする安倍晋三首相の説明と、来年度の概算要求が上積みされていることの矛盾にかみついた。

「男なら、おじいさんみたいに筋を通してほしい。でなければ、お父さんみたいにもう少し寛容に人の話を聞いてほしい」

 おじいさんとは、戦前の翼賛選挙を非推薦で勝ち抜き、軍閥政治に挑んだ反骨の政治家・安倍寛(かん)氏。お父さんとは、戦後の自民党政治の最盛期に、党幹事長や外相を歴任した安倍晋太郎氏である。9月5日、小林氏が講演を行った場所は、寛、晋太郎両氏が輩出した安倍首相のおひざ元、山口県長門市だった。

次のページ