内訳はこうだ。設計・監理等40億円、解体工事費55億円、日本青年館・JSC本部棟移転経費174億円、埋蔵文化財発掘調査費14億円。これらは何を指すのだろうか。

 旧競技場南側の代々木門近く。ホテルやコンサートホールを備えていた日本青年館もその姿を消した。2年後、100メートル南に場所を移し高さ70メートル、16階建てに生まれ変わる。

 実はこの建て替えこそ、永田町界隈で「五輪便乗焼け太り」といわれる案件だ。

 日本青年館は全国にある青年団の総本山ともいえる施設で、所有者は財団法人日本青年館。明治神宮の造営に各地の青年団が貢献したことで建設が許され、1979年に改築された。

 その築36年のビルを新競技場の周辺整備と称し、税金を使って建て直す。4フロアをJSCが本部として使う。先に書いた移転費174億円にこの事業が含まれている。青年団を出身母体とする自民党政治家は少なくない。今回の建て替えでも自民党の有力議員が動いた、と言われている。

 しかも、この周辺はもともと、建物の高さは15メートルまでと規制されていた。都市計画法が定める風致地区として、自然の景観や住環境を維持するため建物の建築や木の伐採などが制限されていたのだ。それが、神宮外苑再開発に伴い、高さ制限と容積率が緩和された。

●便乗焼け太り 規制も緩和

 決めたのは2013年5月17日に行われた東京都都市計画審議会。議事録によると、いくつかの議題に続いて神宮外苑地区の地区計画が審議され、新国立競技場や日本青年館が含まれる地区は、建築物等の高さの最高限度を75メートルとすることが認められた。しかも審議では5分ほどの説明があっただけで、全員一致で可決した。

 もう一つ、腑に落ちないことがある。神宮外苑の高さ規制が緩和される10カ月前、公募が始まった新競技場の国際デザインコンペの基準には、すでに高さが「70メートル以下」と書かれていたのだ。JSCが決めた基準を都の審議会が追認した形になる。背後にどんな力が働いていたのか。

 都内の貴重な緑地として環境が守られてきた神宮外苑。「山手線内に残された最後の再開発地」と、不動産開発業者の垂涎の的でもあった。

「規制を取り払うのは五輪誘致しかないと言われ、森の動きが注目されていた」

 政治評論家の鈴木哲夫は話す。 再開発には一帯の大地主である明治神宮の協力が不可欠だ。森は宗教法人を管轄する文科省に強い影響力をもつ。宮司の中島精太郎に会って協力を求めたのは、森の意を受けた鈴木寛だった。

「明治神宮も再開発には前向きでした」(元都副知事の青山)

 内苑を維持管理する費用は外苑の不動産で稼ぐ、というのが神宮のビジネスモデルという。

 今年4月、都と明治神宮、JSC、三井不動産、伊藤忠商事など7者は「神宮外苑地区まちづくりに係る基本覚書」を締結。協力して再開発に取り組むことで合意した。外苑から青山通りにかけ、都市再開発が動き出す。

 100年近く、静かに東京のスポーツや文化を育んできた神宮の森は、国立競技場建て替えの槌音をどう聞いているだろうか。(文中敬称略)

※やすし…環境依存文字のため、ひらがなで表記。元の字は1文字で、にんべんに「八」に「月」
AERA 2015年9月7日号