澤田さんのベランダ。青い板が「秘密のくぐり戸」と呼ぶ自作のフェイク扉。仕切り板に立てかけてあるだけなので、有事の際は蹴破って通路を確保できる(写真:本人提供) @@写禁
澤田さんのベランダ。青い板が「秘密のくぐり戸」と呼ぶ自作のフェイク扉。仕切り板に立てかけてあるだけなので、有事の際は蹴破って通路を確保できる(写真:本人提供) @@写禁
家側とベランダの柵側で鉢に高低差をつけたアーチに咲くアルベルティーヌ(写真:本人提供) @@写禁
家側とベランダの柵側で鉢に高低差をつけたアーチに咲くアルベルティーヌ(写真:本人提供) @@写禁

 ドラマでも話題のベランダー=ベランダ園芸を楽しむ人が増えている。雨に打たれない、病気や虫にやられにくいと利点もいっぱい。達人の例を参考にこの春デビューしてみては?

 春の朝。ベランダのサッシを開けると、幾重にも連なるアーチからピンク、白、クリームイエローのバラが降り注ぐように咲き、極上の香りに包まれる。

 大阪府吹田市の自宅マンションでそんなガーデニングライフを送るのは、バラ歴12年の40代の主婦・澤田久恵さん。奥行き1.9メートル、長さ10メートルの細長いベランダで、イングリッシュローズ、フレンチローズなど、約40種類のバラを育てている。

「私の経験上、ベランダで咲かないバラはありません」と澤田さん。毎年バラの予約の時期になると、意中のバラを新たに3株ずつ「お迎え」しては、マダム・プランティエ“様”、ピエール“様”などと呼んで、貴族に仕える執事のようにお世話をする。ある時には、満開のバラが絡まる自作のアーチを潜り抜け、バラに埋もれる「花園感」を堪能。さらに、隣家との境にある仕切り板にベニヤ板で作った「秘密のくぐり戸」と呼ぶフェイク扉を立てかけて、「この先はどんな場所に続くのかしら」と想像の翼を大いに広げる──。その達人ぶりには脱帽だ。

 しかし、澤田さんのベランダは、決してバラを育てるのに最適な環境ではない。一般的にバラは午前中の日光が当たるところでないと栽培が難しいと言われるが、澤田さんのベランダは南西向き。床まで日が差し込むのは、季節によっては14時以降になることもある。

 それでも、(1)春から秋にかけての成長期は、毎日たっぷり水をやる、(2)樹皮を細かく裂いた自然資材で鉢土を覆う(マルチング)、この2点に特に気をつければ、過酷な環境のベランダでも鉢土の湿度や温度が安定し、初心者でも花を健康的に咲かせることができるという。

 逆に、ベランダ栽培ならではのメリットもある。ベランダでは強すぎる日差しや雨を防げるため、美しい花の姿を長い間楽しめる。また、地表から遠いため、害虫や病気の被害も受けにくい。澤田さんは病害虫を防ぐための農薬や消毒薬を使わずに育てているので、花びらでジャムを作ったり、風呂に浮かべたりしても安心だ。さらに、本来つるが長く伸びない種類でも、狭いベランダならアーチに這わせて立体的に仕立て、自分だけの花園を作ることができる。

「制約が多いと思われがちなベランダですが、庭にはない魅力がいっぱい。初めてなら、花の調子を気にしすぎないように、3株ぐらいから育ててみるといいのでは?」

AERA 2015年4月27日号より抜粋