父の会長と娘の社長が対立している大塚家具。愛らしさと頼もしさという二つの役割を背負う娘は、世襲の難しさに直面している。

 父から受け取ったバトンは重荷だったのか、それとも名誉だったのか。大塚家具の社長、大塚久美子氏(47)は数年前、業界関係者にこう漏らした。

「私たちはこの業界ではもう勝ち抜けないのではないか」

 創業者、大塚勝久氏(71)の長女として生まれた。下には弟と妹が2人ずついる。勝久氏は、卸を通さず、メーカーから直接仕入れて安く売る商法で事業を拡大。会員制を導入し、販売員が付き添って案内する販売スタイルで、今の地位を築いた。

 父は娘を溺愛した。関東のある店舗を立ち上げるとき、開店日を娘の誕生日にした。仕事仲間に会うたび、娘を自慢した。娘は父の苦労を間近で見てきた。

 そんな娘が父の期待に応えようとしたのは、自然の流れだった。一橋大学を卒業後、富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を経て、26歳で大塚家具に入社。以来、父の右腕となって働いた。

 2009年、父は娘に社長のバトンを渡した。だが、それがすれ違いの始まりだった。当時、業界では低価格を売りにする販売店が台頭。父の高級路線に反し、娘はカジュアルな店づくりを志向し、父の逆鱗に触れた。

 昨年7月、父は娘を社長から解任し、会長兼社長に就いた。ところが今年1月28 日、娘は取締役会で社長に復帰し、父は会長専任に。そして、とうとう3月27日の株主総会を前に、娘は父の会長退任を求め、父は娘の社長解任を要求する泥沼の経営権争いに発展した。

 精神科医の香山リカさんは、娘の苦しみをこう分析する。

「可愛くて愛らしい娘、という役割に加え、後継者としての頼もしい息子、というダブルの使命を背負っていたのではないか。そのしんどさが父に対する無意識の怒りになり、今回の騒動に発展したのかもしれない」

AERA 2015年3月16日号より抜粋