曽野綾子さんは、南ア駐日大使やNPO「アフリカ日本協議会」、「日本アフリカ学会有志」からの抗議と記事撤回要請には「応じない」と述べている(撮影/写真部・加藤夏子)
曽野綾子さんは、南ア駐日大使やNPO「アフリカ日本協議会」、「日本アフリカ学会有志」からの抗議と記事撤回要請には「応じない」と述べている(撮影/写真部・加藤夏子)

 産経新聞にアパルトヘイトを肯定するようなコラムが載った。筆者は作家の曽野綾子さん。こんな意見がまかり通る今の日本は、おかしい。

 曽野綾子さんは、産経新聞に週1回の連載コラムを持つ。2月11日付朝刊の629回目は「『適度な距離』保ち受け入れを」という見出しで、次のような文章をつづっている。

<もう20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった>

 趣旨は、外国人労働者の介護分野での受け入れを説いたものだが、その前提がアパルトヘイト(人種隔離政策)だとすれば、大問題であることは火を見るより明らかだ。さっそく掲載直後からツイッターなどで批判が集中。12日夜に英字紙ジャパンタイムズが電子版で報じ、翌13日にはロイターが「首相の元アドバイザー、アパルトヘイトを賛美し、首相に恥をかかせる」との記事を配信。その後も米紙のニューヨーク・タイムズなどが続々と記事を発信した。

 アパルトヘイトは、国際的には「人道に対する罪」と規定された差別政策だ。それを保守派の論客で、第2次安倍政権の「教育再生実行会議」委員を務めた曽野さんが、前記のようなことを全国紙で書けば、影響は小さくない。海外メディアが驚きをもって報じるのも当然だ。

 産経はなぜこんなコラムを掲載するに至ったのか。取材を申し込むと、曽野さんと産経の見解は2月15日付2面記事で掲載したとおり、とする広報部長名の回答を、紙面とともにファクスしてきた。そこで曽野さんは、

<アパルトヘイト政策を日本で行うよう提唱してなどいません。生活習慣の違う人間が一緒に住むことは難しい、という個人の経験を書いているだけ>

 とコメント。産経新聞の小林毅執行役員東京編集局長は、曽野さんの意見として掲載したと説明するが、どんなやり取りがあって掲載したかは、不明だ。

 ニューヨーク在住の映画監督、想田和弘さんは言う。

「欧米で国籍や人種に関する差別は、日本人が想像するよりはるかにセンシティブ」

AERA 2015年3月2日号より抜粋