トヨタ自動車が燃料電池車の市販に続き、関連特許の無償提供に踏み切った。虎の子の特許を無償提供するトヨタの思惑とは。

 トヨタ自動車が世界に先駆けて市販した燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」の第1号が1月15日、首相官邸に納車された。当初は1億円ともいわれたFCVだが、ミライは消費税込みで723万6千円。国や自治体の補助があるので、実際の購入費は520万円ほどだ。

 FCVは、水素と酸素を燃料電池で反応させて起こした電気で走る。排出されるのは水だけという「究極のエコカー」。トヨタは年内の販売目標を約400台としていたが、1カ月でその4倍近い1500台の受注が入った。その約6割は官公庁や企業などだが、残りの4割ほどは個人からの注文という。

 普及のネックだった水素ステーションも、JX日鉱日石エネルギーや岩谷産業を中心に着々と開設が進む。経済産業省によると、現在は4カ所ほどだが、3月末までに全国で約20カ所、15年度中には約100カ所に増える見込みだ。

 もっとも、トヨタ1社だけではFCVを普及させることは難しい。ホンダが2016年3月に発売予定だが、巨額の開発費が必要なだけに他の自動車メーカーは二の足を踏む。あるメーカーの広報担当者は、こう漏らす。

「前向きに開発を進めていますが課題も多くて。いつ発売できるとは現時点では言えません」

 こうした状況を打破するため、トヨタは1月6日、FCVの関連特許約5680件を無償提供すると発表した。巨費を投じて開発した“虎の子”の技術を、ライバルに教える理由について、豊田章男社長は報道陣にこう語っている。

「水素社会は、いろいろな会社が参加してくれないとできない」

 技術を独り占めしていたらFCVが普及しないというわけだ。自社の技術が世界標準になれば、次世代車の主導権を握ることができる、という狙いも透けて見える。

AERA 2015年2月2日号より抜粋