「ザ・ワン・ウェル」を経営するケリー・ジョーンズ。「力の小さいローカルの作り手を支援することが私の使命」という(撮影/山田陽)
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「ザ・ワン・ウェル」を経営するケリー・ジョーンズ。「力の小さいローカルの作り手を支援することが私の使命」という(撮影/山田陽)
2008年にスタートした「ブルックリン・フリー」は、ローカルの作り手や個人経営のベンダーを積極的に支援してきた(撮影/山田陽)
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2008年にスタートした「ブルックリン・フリー」は、ローカルの作り手や個人経営のベンダーを積極的に支援してきた(撮影/山田陽)

 今、ブルックリンでは、クラフトと食の分野を中心に、「DIY(ドゥ・イット・ユアセルフ)」ブランドによる、「メーカーズ(作り手)ブーム」が起きている。その背景には、金融危機以降、それまでの大量生産主義、消費主義に対する反動として、ハンドメードやビンテージの商品を見直す動きができてきたことがある。さらに、消費主義の中心であったマンハッタンに対する対抗勢力として、ブルックリンがブランド化した。

 そのような新しい動きに貢献したひとつの台風の目が、ブルックリンのダンボと呼ばれる地域にオフィスを構える、「エッツィ・ドットコム」を運営するエッツィだった。

 エッツィは大工などをしながら生計を立てていたロバート・カリンという人物が2005年に創業した。アーティストや業者が手作りの作品をブースで売る「クラフトフェア」という、アメリカの伝統的市場にヒントを得て立ち上げたオンラインサービスを提供。個人がサイト内に商店を開き、商品を掲載する手数料と売り上げの一部をエッツィに支払うという仕組みになっている。

 エッツィは、新たなブルックリンというブランドを世界に知らしめる大きな要因のひとつとなったが、物理的なマーケットを提供する「ブルックリン・フリー」もまた、一大観光地としてクラフトや食のアルティザン(職人)文化の震源地となっている。08年に始まった、このいわば「蚤(のみ)の市」は、ビンテージやハンドメードの商品を中心に、個人の販売主にブースを出す場を提供している。

 ここで出合った「メーカーズ・ブーム」に触発されて、自分の店舗を出した人もいる。「ザ・ワン・ウェル」というショップを経営するケリー・ジョーンズ(30)もその一人だ。

 ミュージシャンを目指してニューヨークに出てきたものの、ビンテージショップで働きながら生活費を捻出する暮らしに疲れていた。そんな時、得意な料理の腕を買われて、郊外のビーチタウンで、インテリアデザイナーの邸宅に住み込みながら調理する「パーソナルシェフ」の職を得た。その仕事で1年間かけてためた貯金で、店舗を開くことにした。

「インテリアデザイナーのもとで働きながら、無駄にモノが捨てられていく状況を見て、サステイナビリティー(持続可能性)の重要性を認識しました。エッツィやブルックリン・フリーをリサーチするうちに、廃材を転用してモノを作る作り手たちが急激に増えているのに気がついて、それを支援するビジネスをやりたいと思ったんです」

 ジョーンズのショップでは、「ローカル(土地のもの)」「サステイナブル」「ハンドメード」「ビンテージ」を基準にした商品だけを取り扱っている。たとえば不要となったジュエリーを溶接し直して作るジュエリーや、再利用紙を使ったノートといったラインアップだ。

「環境にやさしい素材を、持続可能な方法で作っているもの。日常をちょっとだけスペシャルにしてくれるような少量生産のブランドだけを扱っています」

 こうした方法で作られた商品は、大量生産で作られた商品に比べたら割高になるため、店舗を維持していくのは決して楽ではない、とジョーンズは言う。

「けれど、消費者は、何を口に入れるか、何にお金を使うかということをより良心的に意識するようになっている。この良心が少しずつ広がっていけばいいのだと思います」

AERA  2014年11月24日号より抜粋