人生の折り返しの時期にさしかかる、40代。老後のための、退職時の貯金目安額は「夫婦で3千万円」といわれる。しかし、貯金があることが本当の安心につながるのだろうか。

 仕事、家族、そして「自分の道」。これらの不安をお金で埋めようとするのは、現在の40歳世代の特徴かもしれない。団塊ジュニア世代で人口が多く、激しい受験戦争を勝ち抜いたが、バブル崩壊で就職先はなかった。

 後輩にあたる「ゆとり世代」は、家族や地域など落ち着ける場所を持つように見える。一方、先輩の「バブル世代」は、スキルとタフさを兼ね備えた、仰ぎ見る存在だ。あるアラフォーの女性は、自らの世代をこう表現する。

「中途半端なのに、年金もらっちゃってゴメンナサイ世代」

 大手重工業メーカーで事務職をする女性(43)は、バブル世代の先輩社員が反面教師になった。短大卒業後に都内の広告会社に入社、仕事にやりがいはあったが、バブル崩壊の影響で会社は倒産。23歳のときに再スタートを切り、1800万円を貯めた。いまは、実家で両親と同居する。

 再就職先に畑違いの大手企業を選んだのは、やりがいよりも貯金のためだ。会社が倒産した後も、バブルを知る先輩社員は「いつか景気はよくなる」と、親に借金をしながら、フリーで広告の仕事を続けた。「車を買ったつもり」で440万円のハリー・ウィンストンの時計も買った。だが、それをカッコイイとは思えなかった。

貯金のほとんどは、会社の財形貯蓄と持ち株会で貯めた。財形貯蓄には、毎月2万円、ボーナス月に5万円。貯まったお金は、20年間マジメに働き続けた証しだ。「とても充実感がある」というが、惑いもある。

「ケチケチ貯め込むのは好きではないが、貯めていないと落ち着かない。1回しか使っていない2万円のショールを、今は無駄な出費だったと悔やんでいる」

『40代から間に合うマネープラン』の著書をもつ田辺南香さんは、今の40代に「交際費」をチェックすべきと説く。気分の乗らない人付き合いを続ける必要はないが、老後の財産になりうる関係性は維持したほうがいい、と田辺さんは指摘する。

「退職後に本当に必要なのは、自分の存在価値を感じられる場所。居心地がよいと思う空間やお付き合いは、多少投資しても残すべきではないでしょうか」

 自分らしく生きることと、現実を生き抜くこと。その間で揺れる40代に必要なのは、「自分なりの財産」を見つけ、つくることだ。

AERA  2014年11月3日号より抜粋