事業アイデアが社内で認められたら、孵化するための組織「イノベーションセンター」に移る制度もある。子会社化した事業も(撮影/写真部・岡田晃奈)
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事業アイデアが社内で認められたら、孵化するための組織「イノベーションセンター」に移る制度もある。子会社化した事業も(撮影/写真部・岡田晃奈)
社長業の傍ら、人事部長も兼任する森田仁基さん。社員が「やりたい」と思う仕事ができるよう、適正配置にも目を配る(撮影/写真部・岡田晃奈)
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社長業の傍ら、人事部長も兼任する森田仁基さん。社員が「やりたい」と思う仕事ができるよう、適正配置にも目を配る(撮影/写真部・岡田晃奈)

 引っ張って、ビヨン。モンスターを指で引っ張って弾き、敵のモンスターに当てる。極めてシンプルで、どこか懐かしい。スマホ向けゲーム「モンスターストライク」、通称「モンスト」がヒットしている。

 昨年秋にリリースし、今年5月には台湾での提供もスタート。8月には世界累計利用者数1200万人を突破した。

 この大ヒットゲーム、生み出したのはゲーム会社ではない。SNS「mixi」を運営する、ミクシィが生みの親だ。10年前に「mixi」を世に出し、個人が日記を公開するという新たなライフスタイルを生んだが、フェイスブックやツイッターの台頭で、ここ数年は利用者が伸び悩んでいた。2014年3月期は上場後はじめて赤字に転落。

 同社の新時代を告げたのが、「モンスト」のヒットだった。SNSからゲームへ。事業の柱を大きく変えるのは、容易ではない。ミクシィではとりわけ、成功体験が足かせになった。

 本来は、高い業界知識と職人的なマジメさが、社の強みだった。会議では進行のベースとなる資料が配られ、各サービスには分厚い仕様書が作られる。08年にプロデューサーとして入社した森田仁基(ひろき)さん(当時32)は、「想像以上に、シッカリした会社だった」

 が、職人気質が裏目に出たのかもしれない。森田さんが入社した時、「mixi」担当チームは200人に膨れ上がっていた。エンジニアがサービスを丁寧に改良する一方で、致命的なミスもあった。

「スマホの普及スピードを予測できなかった。mixiの成功で、組織が大きくなりすぎていたためです」(森田さん)

 インターネット業界では、時代に合わせて事業やサービスを変えていくことを「ピボット」というが、日本人は極めてピボットが苦手だという。ミクシィはこれを、どう克服したのか。

 ある社員が提出したモンストの事業プランに賭けて、開発メンバー4人をSNSの組織から一時的に引き離した。そして、社内にある会議室に彼らを缶詰めにした。

 ゲーム開発の経験者はいなかったので、協力会社を会議室に呼び込み、前職でニンテンドーDS用ゲームをプロデュースした経験のある森田さんに統括を任せた。あとは、会議室で熟するエネルギーに委ねたのみ。ガレージ起業ならぬ、会議室起業が、華麗なピボットを生んだ。

AERA 2014年9月8日号より抜粋