伊豆諸島最南端にある青ケ島(東京都)。360度のパノラマビューの星空はまるで宇宙船に乗っているかのよう(撮影/井川俊彦)
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伊豆諸島最南端にある青ケ島(東京都)。360度のパノラマビューの星空はまるで宇宙船に乗っているかのよう(撮影/井川俊彦)

 ギリシャ神話由来の星座名になじめないあなた。日本にも、古来伝わる星物語があるんです。身近で親しみやすい星空を、見上げてみませんか。

 太陽が沈み、群青の空に星が瞬き始めた。たくさんの星座をめぐり、この星空を旅したい!と意気込むが、う~ん、「北斗七星」ぐらいしか見つけられない…。早見盤の力を借りても、星座が見えてこない。

 中でも「いて座」は、半人半馬が弓を引いている姿を想像するのはかなり難しい。こうして星空に挫折してきたのは、私だけではないのでは。

「星座や星の並びは、見る人によっていろんな形に見えます。無理に難しい星座を覚えなくても、自分で楽しめばいいんです」

 そう教えてくれたのは、「星空案内人」(愛称・星のソムリエ)という資格の生みの親、柴田晋平・山形大学教授だ。

「特にいて座は難しいんです。でも、よーく見ていると、何か見えてきませんか」

 いて座の星々を線で結んでみると…あ、ティーポットが現れた。

「そうです。さらに天の川が見えるなら、ポットから湯気が上がっているように見えますよ。隣のさそり座は、しっぽが釣り針のように見えるので、日本では昔から『魚釣り星』などと呼ぶ地方があります」

 こんなにシンプルで面白い楽しみ方もあるのか。さっそく今夜、星空を見上げたくなってきたぞ。でも、国内のプラネタリウムで紹介される星座はほとんどがギリシャ、ローマ神話ばかり。

「残念なことに、日本を始め、アジア各地で伝わる星や宇宙の神話や伝説は、それぞれの地域でもほとんど知られていません」

 国際天文学連合会長の海部宣男・国立天文台名誉教授はそう指摘する。アジア各国のプラネタリウムを訪れたとき、自分たちの星文化を語らないことに違和感を覚えたという海部さんは、2008年に各国の天文学者に呼び掛け、各地に伝わる星の神話や伝説を発掘。今年2月、13の国・地域の68の神話・伝説をまとめた『アジアの星物語』(万葉舎)を出版した。

 海部さんによると、古代日本では、中国思想にならって天皇が天に直結していると考えられていたため、天皇への遠慮やおそれから、星座についての文化は生まれなかっただろうという。アイヌ民族や琉球の文化では、自由な発想で星をとらえ、豊かな物語や歌が伝えられてきた。

 一方で、農業や、漁業や貿易の航海では星を季節や場所を知る目印にしたので、日本各地で、さまざまに星の和名がつけられ、親しまれてきたという。

 星文化が豊かな沖縄県石垣市の石垣島天文台の宮地竹史台長はこんな民話を教えてくれた。

「八重山諸島の波照間島では、さそり座の赤い星・アンタレスを、酔っ払いのおじいにたとえて『ビーチャー星』と呼ぶんですよ」

AERA  2014年9月1日号より抜粋