来日中、アイザック・レイヴァ(中央)は、ダウン症の子どもたちとダンスで交流。参加した渡辺拓さん(12)は「(アイザックは)すごくかっこいい。僕もスペシャルな能力を持つ人になりたい」と笑顔を見せた(撮影/編集部・深澤友紀)
来日中、アイザック・レイヴァ(中央)は、ダウン症の子どもたちとダンスで交流。参加した渡辺拓さん(12)は「(アイザックは)すごくかっこいい。僕もスペシャルな能力を持つ人になりたい」と笑顔を見せた(撮影/編集部・深澤友紀)

 大ヒット中の映画「チョコレートドーナツ」の名演技で観客の心をわしづかみにしたダウン症の俳優が初来日した。演技ではもちろん、それ以外の部分でも彼が作品にもたらした影響は大きい。

 街灯に照らされた街をとぼとぼと歩く少年。言葉はなくとも、背中で多くを語る。映画「チョコレートドーナツ」は彼の印象的な演技で始まり、終わる。

 1970年代に米ブルックリンであった実話を基にしたこの映画は、母が薬物所持で逮捕されて独りぼっちになったダウン症の少年が同性愛のカップルと家族をつくるが、偏見と差別から引き裂かれてしまう物語。

 愛を知らなかった3人が出会い、生きる価値を見いだすストーリーは、性的少数者やダウン症という枠を超えて感動を呼び、東京・シネスイッチ銀座1館から始まった上映は、全国100館以上に広がる予定だ。

 少年を演じたアイザック・レイヴァ(23)は自らもダウン症だ。幼い頃にディズニー番組を見て俳優を志したといい、18歳のとき、母、ジャスティン・ヘレーラさん(42)に「俳優になりたい」と明かした。若い頃、女優を目指したジャスティンさんは「恐怖を感じた」という。

「健常者でも足を踏み入れるのが難しい業界と知っていたから、彼が挫折を経験し、傷つけられないか不安でした」

 悩んだが、「自分の不安が子どもの夢の邪魔になってはいけない」と、彼が俳優になる道を探し、障がいのある大人のための演劇学校を見つけて入学させた。オーディションで今回の映画への出演が決まったとき、アイザックはトラヴィス・ファイン監督(45)の前で「人生の夢がかないました」と泣いたという。

 トラヴィス監督は彼を、「シンプルで美しい演技の中から感情が伝わってくる」と評する。難しい撮影現場もアイザックの存在が支えになった。長時間の撮影で、クリスマスシーンが撮り直しになった時、俳優もスタッフも疲れた顔を見せるなか、アイザックが「またクリスマスができるの!」と重い空気を吹き飛ばした。

「彼は、演じることの喜びや興奮、そういった初心を思い出させてくれた」(トラヴィス監督)

AERA 2014年6月23日号より抜粋