格差社会という言葉が定着してきた昨今。一方で、人々が格差に対して鈍感になりつつあるというデータもある。世襲による格差の固定も進んでいるようだ。

 比較社会階層論が専門の石田浩・東京大学社会科学研究所長らがかかわる、社会階層と社会移動(SSM)調査や社会科学研究所パネル調査を用いた研究では、1955年から10年ごとに社会の閉鎖性(世襲や継承の度合い)を測る調査を続けている。職業などをもとに父親の階層を「上層ホワイト」「下層ホワイト」「自営」「農業」「熟練ブルー」「非熟練ブルー」の6種に大別。子ども世代が、父親世代とは別の階層に移動する傾向があれば閉鎖性が弱く、逆に同じ階層に留まる傾向があれば閉鎖性が強いと読み取る。

 この調査の結果、近年(96~05年度)、「上層ホワイト階層」と「非熟練ブルー階層」において、閉鎖性が高まっているとの結果が出た。階層の両極でじわじわと世襲傾向が増すうちに、人々はそれに慣れ、違和感を失っていった可能性があると、石田所長はみる。

 格差に対する社会意識の変化は、別の調査からもみて取れる。東京大学社会科学研究所の「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」で「所得格差は大き過ぎる」と答えた人は、調査を始めた07年の74.8%から毎年減り続け、11年には60.5%になった(すべての年で回答した約2800人について集計)。この間、現実には所得格差(ジニ係数)は、ほとんど変化していない。なぜなのか。

「所得格差の存在を肯定する人が増えてきた結果、格差感が薄れてきたのではないか」

 この調査に携わった同研究所の有田伸教授は、そう分析する。

AERA  2014年6月2日号より抜粋