1992年から2012年まで、読響のソロ・コンサートマスターとして活躍した藤原浜雄さん。現在は母校でもある東放学園で教鞭をとる(撮影/中嶋豪)
1992年から2012年まで、読響のソロ・コンサートマスターとして活躍した藤原浜雄さん。現在は母校でもある東放学園で教鞭をとる(撮影/中嶋豪)
オケ全体のチーフであり、指揮者と楽団員の融合役であるコンサートマスターによって、楽団が奏でる音は大きく変わる。責任重大だ(写真:読売日本交響楽団提供)
オケ全体のチーフであり、指揮者と楽団員の融合役であるコンサートマスターによって、楽団が奏でる音は大きく変わる。責任重大だ(写真:読売日本交響楽団提供)

 たったひとりの音楽家のために、日本屈指のトッププレイヤーたちが所属楽団の枠を超えて集結。奇跡のような1日限りのスペシャルオーケストラが誕生する。2月9日に東京・池袋の東京芸術劇場で行われるこのコンサートの主役は、元読売日本交響楽団(読響)のソロ・コンサートマスター藤原浜雄さん。演目は、長大で難易度の高いヴァイオリンのソロパートがあることでも知られるR・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」だ。

 本来このコンサートが予定されていたのは、2011年3月14日。20年近く勤めた読響を近く勇退する予定だった藤原さんは、区切りとなるコンサートで、シュトラウスが自らの音楽人生を描いたといわれるこの大曲に挑もうとしていた。ところが、本番を3日後に控えたリハーサルのさなかに、東日本大震災が発生。交通機関の混乱や計画停電、重苦しいイベント自粛のムードが東日本の空を覆うなかで、中止を余儀なくされた。

「悔しくなかったと言えば、嘘になるでしょう。コンサートの中止が決まった後に他の演奏会に足を運んだのですが、あの時ほど『音楽ってこんなにいいものだったか』と心がしびれたことはなかったように思います」(藤原さん)

 あの舞台を実現させたい──と立ち上がったのが、小学生時代から藤原さんとヴァイオリニストとしての腕を競い合ってきた友人で、元NHK交響楽団のソロ・コンサートマスター徳永二男さんだ。企画を持ちかけたテレビ朝日・中嶋豪さんの呼びかけに賛同し、音楽監督という大役を引き受けた。

 徳永さんは、須田祥子さん(東京フィルハーモニー交響楽団首席・ビオラ奏者)、吉田将さん(読響首席・ファゴット奏者)、高橋敦さん(東京都交響楽団首席・トランペット奏者)らに声をかけ、楽団や編成を取り仕切るインスペクターに指名。彼らの働きかけもあって、「今日本で考えられる最高の音楽家たちが自主的に集まった」(徳永さん)。

 自身も一流と呼ばれる音楽家たちの誰もが、「浜雄さんの指のまわり方は神の領域」(都響コンサートマスター・山本友重さん)、「頭の回転が速いうえ、テクニックも抜群。温かい人柄がそのまま音楽に出ている我らが親方」(吉田さん)、「浜雄さんの背中を見て弾かせていただきたいと立候補しました。あれだけの技術をお持ちなのに、人柄は温かくておちゃめ」(フリーヴァイオリニスト・黒木薫さん)と、藤原さんへの敬愛の念を隠さない。

※AERA 2014年2月10日号より抜粋