弱冠31歳の校長が「おくりびとアカデミー」に懸けた思い 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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弱冠31歳の校長が「おくりびとアカデミー」に懸けた思い

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看取師「医療では取り除けない『心』『家族』『社会』といった人の痛みの問題に取り組みたい」高丸慶さん(31)人間の死を取り巻く環境が複雑になっているからこそ、人の終末期に寄り添う伴走者でありたい(撮影/写真部・関口達朗)

看取師
「医療では取り除けない『心』『家族』『社会』といった人の痛みの問題に取り組みたい」
高丸慶さん(31)
人間の死を取り巻く環境が複雑になっているからこそ、人の終末期に寄り添う伴走者でありたい(撮影/写真部・関口達朗)

 今年10月、東京都中央区の日本橋大伝馬町に「おくりびとアカデミー」という聞き慣れない学校が誕生する。築50年、地上6階建てのビルを改装。壁は白のモノトーンで統一され、通りに面した1階にはお洒落なカフェが併設されている。

 この学校では、おくりびと(納棺師・湯灌(ゆかん)師)を目指す人材を養成。卒業後はアカデミー認定の資格を給付し、葬祭専門事業者や冠婚葬祭互助会への就職斡旋も積極的に行う。そのため、おくりびと(納棺師・湯灌師)になるための基礎的な知識と技術を養成する「納棺士コース(6カ月・夜間制)」や、遺体の防腐処置、消毒、修復、化粧を専門的に行うエンバーミングという技術を学ぶ「エンバーマーコース(24カ月・全日制)」など授業も専門的、かつ実践的だ。現在も受講生を募集している。

「おくりびとアカデミー」校長の高丸慶(31)は看護師。慶応義塾大学看護医療学部卒業後、余命3カ月の末期がん患者の看取りに特化した訪問看護ステーション「株式会社ホスピタリティワン」を起業。この看取りの現場で高丸は、日本に介護保険が導入された2000年以降、終末期を家族ではなく他人にゆだねるという文化が生まれ、そこには利用者の無限のニーズがあるということを実感した。臨床心理学には「トータルペイン」という考え方があって、人の痛み(悩み)は「体」「心」「家族」「社会」から構成されていると考えられている。

「身体的な『体』の問題は医療が取り除くことができる。けれども、『心』『家族』『社会』の問題は別。これらを解決するには、介護保険、医療保険の利用法、葬祭関連や仏事、遺言や遺産相続など必要な社会資源を分かりやすく説明できなければならない。身の回りのお世話だけでなく、これらの痛みの原因をあぶりだし、解決に導くお手伝いができる看護師を育てることが急務だと思ったのです」
 
 12年、高丸は一般社団法人「エンディングコーチ協会」を設立。看護師だけでなく、人間の終末に携わるあらゆる職種の人々が、必要最小限知っておかねばならない専門知識をひとつのメソッドとして確立。資格ビジネスとして世の中に普及させる取り組みを始めた。

 この取り組みを通じて、高丸は若き納棺師・木村光希(24)に出会う。木村は大学卒業後、家業である納棺師の道へ。木村の父・眞二は映画「おくりびと(監督・滝田洋二郎)」で納棺の所作、作法の技術指導をした人物として知られている。

 高丸と木村は、少子高齢化、無縁死、自殺、災害死など人間の死を取り巻く環境が大きく変化しているにもかかわらず、人間のエンディングをビジネスの機会としか捉えようとしない業界の“変わろうとしない”姿勢に疑問を投げかけた。

「納棺という行為は、死に関するひとつの断片的なものでしかありません。日常生活では極力避けたい死ですが、真実としては誰も避けては通ることができない最後の幕引き。であるならば、死への関わり方にはもっと自由なアプローチがあってもいいと思ったのです」

 高丸と木村は意気投合し、死をタブーとして扱うのではなく、例えば「死生学」「介護」「医療」「遺体処置」などあらゆる角度から人間の死というものを見つめ直し、終末期に携わる人々が業種の隔たりを超えて結集できる場を作ろうと決意。「おくりびとアカデミー」を発足させた。

AERA  2013年9月30日号


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