世間を笑わせ、そして考えさせた研究に贈られるイグ・ノーベル賞の授賞式は毎年9月に米ハーバード大学サンダーズ劇場で開かれる。今年の日本人の受賞は2人(2組)。心臓移植をしたネズミにオペラを聴かせると聴かせないより拒絶反応が弱くなると突き止めた帝京大学医学部の新見正則准教授(54)らが「医学賞」、タマネギを切ると涙が出る真相を解明したハウス食品の今井真介さん(56)らが「化学賞」に輝いた。

 式のメーン行事は受賞者による1分間スピーチ。時間を超えると8歳の女の子が登場して「もうやめて、私は退屈なの」というセリフを連呼する。ある年齢の子どもには大人にはない特殊な能力があるといい、スピーチを制止するには8歳より下でも上でもダメだそうだ。

 10組いる受賞者の最初に登壇した新見さんはネズミの格好をした学生2人を従え、会場を沸かせた。英国留学の経験があり、テレビ番組にレギュラー出演するだけあって、英語スピーチを1分ちょうどで終わらせた。

 一方、研究畑一筋という今井さんは「これまでタマネギで涙を流してくれた皆さんに感謝したい」と笑いを取ったものの、時間オーバー。少女のお出ましとなった。ここで同行していたハウスの社員らがプレゼントを手渡すという「裏技」に出た。

 両手いっぱいにプレゼントをもらった少女はうれしそう。自然と追及の手がゆるむ。これも一種のユーモアで、伝統だ。

 これで日本人の受賞は7年連続。過去には仮想ペット「たまごっち」(経済学賞)やカラオケの発明(平和賞)が対象になった。発明家のドクター・中松氏は意外にも「栄養学賞」を受賞した。なぜ日本人は強いのか。

 エイブラハム氏によれば、継続的に受賞しているのは日本と英国で、共通項があるという。

「多くの国が奇人・変人を蔑視するなかで、日本と英国には誇りにする風潮がある」

 ただ、この「奇人・変人」という言葉は、賞そのものに置き換えることもできそうだ。

 日本でイグ・ノーベル賞はすっかり名誉として定着した。今井さんの受賞に際してハウス食品が出したプレスリリースは「毎年笑いと賞賛を込めて授与される」「脚光の当たりにくい分野の地道な研究に、人びとの注目を集めさせ、科学の面白さを再認識させる」などと最大級の賛辞を贈る。ノーベル賞における日本メディアの報道ぶりは突出しているが、イグ・ノーベル賞でも同じことがいえる。

AERA 2013年10月7日号