AM6:49大会期間中に都内で行われた活動報告会に、20人以上の出社ニストが集まった。ノンアルコールドリンクで乾杯、朝鍋を囲んで盛り上がった。その後、次々に出社していった(撮影/今村拓馬)
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大会期間中に都内で行われた活動報告会に、20人以上の出社ニストが集まった。ノンアルコールドリンクで乾杯、朝鍋を囲んで盛り上がった。その後、次々に出社していった(撮影/今村拓馬)

「エクストリーム出社」という言葉をご存じだろうか。その名の通り、エクストリーム(過激)な出社ぶりを競う大会で、「出社ニスト」と呼ばれる出場者たちが集う。

 非日常から始まる日常を、人は確かに求めているらしい。エクストリーム出社に、現代人の背中を押す何かがあると感じ取っているのは発案者の一人、テレビ番組制作会社に勤める天谷窓大さん(29)だ。

 実は天谷さん、前職で「どうしても会社に行きたくない」日々が続いた。つらくてつらくてある日、会社とは逆方向の電車に乗ってしまう。考えつく限りの方法で会社から遠ざかるのだが、結局「会社に行かなければクビになってしまうし」と、何事もない風を装い出社していた。やがてこんなことを思いつく。

「会社に行く前に旅行気分を味わえれば、会社に行くのが楽しくなるんじゃないか」

 エクストリーム出社の萌芽である。その考えを聞いた親友の椎名隆彦さん(34)は、「競技性を加えることで、出社という嫌なことがゴールになる。そうなればきっと楽しい」と直感した。逃避願望とそれでも働かなくてはいけないという諦め、そこに遊び心が加わったことで、エクストリーム出社が生まれたのだ。

 以来、週2、3回のペースでエクストリーム出社を続ける2人。荒川でカヌー体験、寺院で座禅を組んだ後に海岸でスイカ割り、高尾山に登ってご来光を拝む、箱根で温泉につかる…。

「遠足の朝のような気持ちで目覚めるんです。飛び込むように会社の入り口をくぐる自分がいます」(天谷さん)

 朝起きて会社に行く途中の光景は、誰しも同じようなものだが、エクストリーム出社になると一転、それはきわめて個性的なものになる。今大会で参加者が挑んだのは──。

 キャンプをして仲間とバーベキューを囲んだり、スカイツリーを見学したりというのは序の口。自転車で山手線内一周を試みた猛者が現れれば、尊敬してやまないという吉田松陰に関わる史跡を巡る女性もいた。ある企業では、社長と新人社員が絆を求めて海水浴に繰り出した。

「優勝したい。あり得ないことをやらなければ」と、グラフィックデザイナーの秋山直子さん(38)が企画したのは合コンだ。午前5時の開始時刻に男女7人が集まると、朝だから、とコーヒーで出会いに乾杯。ボウリングを挟み、3次会のカラオケまで楽しんだ。秋山さんは言う。

「下心よりも、みんなで優勝という目標に向かっていこうという一体感があった。会社で、思い出し笑いしちゃいました」

AERA 2013年9月16日号