冒頭のはらメディカルクリニックの原利夫院長は、現実はそんなに単純ではないという。本来は出産適齢期である35歳までの間に卵子を凍結し、45歳までに出産をすることが望ましい。だが、実際は同クリニックに駆け込んできた女性の多くはアラフォー。20代で凍結保存まで考える人は少なく、多くの場合は卵子の老化が進んでから危機感を抱くという。

「卵子が老化すると、染色体異常が発生しやすく、凍結卵の解凍後の回復率も妊娠・出産の確率もガクンと下がってしまいます」

 理論上、将来の妊娠に有効な卵子の個数は31歳までであれば8個以上で十分と考えられているが、41~43歳では47個以上と6倍近くも必要になる。そもそも、40歳以上では、排卵誘発剤を使用しても、凍結可能な卵子を採取するのは難しい。47個という数は現実的ではないという。

 結局、原院長は、12年8月で独身者の卵子凍結をいったん中止することを決めた。

「未婚者でも、将来に備えて凍結保存をすることは希望になる、と思って始めましたが、一人も凍結卵子を利用できていない現状をみると、着地点が見えないのに夢だけ与えるのはいいことなのかと思ったのです。パートナーを探すことは医療者には介入できない領域。不妊治療であれば、年齢によって妊娠の可能性が低い場合でも、医療が何かできることがある。でも未婚者の場合には何もできない。そこがジレンマでした」

AERA  2013年9月9日号