2ちゃんスレッドに現れた、家事も育児も無理しない奥さま「ダラ奥」。バカにするなかれ。いまの幸福の形がここにあるかもしれない。

 医療系の仕事をするサキさん(40)は、10歳の長男と4歳の長女をもつワーキングマザー。紺のジャケットに黒いクロップドパンツという姿はバリバリ働く印象だ。結婚11年になる医療メーカー勤務の夫が3年前、中国に単身赴任してから、ダラ奥ライフは始まった。

 小さい子どもがいるので15時までの時短勤務だが、「勤務中はかなりバリバリ働いてます」。その分、家ではダラ奥気味。買い物は毎日仕事帰りにするが、掃除は最近まで週に1~2回、舅がしてくれていた。子どもの習い事の送迎を頼んでいた舅が部屋のあまりの汚さを見かねて掃除してくれたのが始まりだった。料理は100円ショップで購入した三つのシリコンスチーマーを駆使して、レンジでチン。

「ところが先日、息子が『友達のお母さんがケーキを焼いた。自分も誕生会を開きたいからケーキを焼いて!』とせがむので21世紀に入って初めて13年ぶりにケーキを焼きました」

 サキさん自身、もっと頑張れば仕事と家事が両立できるとわかっている。それをしないのは燃え尽きないため。余力を残すためにあえて家ではダラダラ。

「職場で患者さんから『子どもがいて仕事してて偉いなあ』と褒められるときが幸せですね」

 内閣府が行った「国民生活選好度調査結果」(2011年)によれば、幸福感が最も高い世代は30代女性。さらに筆者が30代女性557人(平均34.94歳)に実施した心理調査「成人期女性の主観的幸福感の検討」(12年)では、30代女性を〈仕事の有無×婚姻の有無×子どもの有無〉で6群に分けて検討した結果、子どもをもち仕事をもたない専業主婦・母群が「幸福感の自己評価」が最も高いという結果が出た。この群のみ主観的な幸福感に至る経路がほかの5群よりシンプルであることも示された。子どもがいる専業主婦が幸福を感じる構造は、楽観性が人生の満足度を高め、そのことが主観的幸福感によい影響を与える可能性が示されたのに対し、シングル群やDINKS群などのほかの5群は、幸福を感じる際に「意味や志向性」を経由した。

 女性の生き方は時代とともに複雑化し、ライフコースのパターンも増えた。それに伴い、幸福を感じる構造も複雑化した。そんな中、従来からある「妻と母の役割」を全うする女性の幸福感のみ、構造が複雑化しなかった可能性が考えられる。

 幸福感の先行研究によれば、幸福とは個人の主観によるもので、他者や過去の自分との比較で現在の自分の幸福度を測るとされる。人は理想を追い求めすぎると、幸福感が損なわれる。

「あと1ピース足りない何かを埋めようと頑張る」自己啓発的な生き方とは一線を画す、与えられた環境に抗わずにあえて頑張らない、ダラ奥的な生き方こそ、いまの幸せの形なのかもしれない。

AERA 2013年9月2日号