新しい家族の形のひとつ、事実婚。しかし制度上、まだまだ不便を強いられることも多いという。

 事実婚をめぐる数々の不公平の中でも、甚だしいのが相続だ。夫や妻に先立たれたとき、法律婚ならふつう、配偶者の遺産の相当部分を引き継ぐ。それが事実婚の場合、何十年一緒に暮らしていようと、法定相続はゼロだ。また、法律婚の子(嫡出子)とそれ以外の子(非嫡出子)が混在する家庭では、子どもたちの間で相続分に差が生じる(非嫡出子は嫡出子の半分)。

 本人にはどうしようもないことで子どもを差別しているこの民法の規定については、9月4日にも最高裁が違憲と判断するとの見方がある。ただ、明治時代の旧民法から続くこの規定のため、いまも厄介な手続きを余儀なくされている事実婚の人たちもいる。

 首都圏の大学教員のAさん(30代)は今年、事実婚の会社員の夫(40代)との間に初の子を産んだ。再婚同士で、夫には以前の法律婚で誕生した子どもがいる。事実婚のままだと、その子は嫡出子、新生児は非嫡出子になる。そうした不公平を避けるため、Aさんと夫は臨月に婚姻届を提出。出生届を出すとすぐ離婚届を出し、事実婚に戻った。

「夫婦2人とも名字を変えたくないので、やむを得ず事実婚を続けています。制度がこのままなら、必要であれば何回でも、書類上の結婚・離婚を繰り返すと思います」(Aさん)

 ふだんの生活では、事実婚の不便や不利益は感じないという。ただ、いま突然どちらかが死んでも財産をまったく引き継げない不安は常にあり、不動産を取得するときには、互いに相続人に指定し合う内容の遺言状を作ろうと話している。

 そうした書類の作成を引き受け、自らも22年間、事実婚を続ける都内の行政書士・武石文子さんは、こう指摘する。

「いろんな形態の家族を認める社会になっていないんです。例えば、配偶者の戸籍抄本を取ろうとしたら、法律婚だったら長年別居していても、簡単に取れる。でも事実婚は、住民票などで家族であることを示しても、委任状がないとできません」

AERA 2013年9月9日号