「入隊して5カ月。芸能兵としての活躍はこれからだったのに、軍のイベントやネットで彼の姿を見られなくなるのが残念です」

 アイドル歌手SE7EN(セブン)の大ファンというユミコさん(50代)は肩を落とす。

 韓国国防省は8月9日、兵役中のSE7ENを「芸能兵」から「野戦部隊」に再配置した。野戦部隊とは、特殊部隊以外の一般的な部隊を指す。当然、有事の際には前線に送られる可能性もある。

 発端は6月25日に放送された韓国SBSの時事番組「現場21」のスクープだった。カメラが捉えたのは、SE7EN、歌手のRainら6人の芸能兵が慰問公演後に私服で外出、飲食店でビールを飲んだあと、うち2人が風俗サービスを行うマッサージ店に出入りしていた姿。こうした芸能兵の不祥事や服務規定違反に、国防省は7月18日、芸能兵制度を廃止すると発表した。芸能兵として活動中だった人気K - POPグループSUPERJUNIORのメンバー、イトゥクなど12人は、野戦部隊に再配置された。

 芸能兵は1997年に設置された、韓国軍の広報活動に従事する兵士で、正式名称は「国防広報支援隊員」。00年代後半からは韓流ブームも相まって、映画「王の男」のイ・ジュンギなど、スターが続々と芸能兵に。「ドリームコンサート」と称される軍主催のイベントや国軍FMのDJなどに参加していた。

 しかし、韓国大手映画配給会社CJエンターテインメント・ジャパンの栃木真理子さんは芸能兵制度の弊害をこう指摘する。

「軍の放送や演劇は、エンタメとしての魅力も低く、本人らしさを発揮できるものでもありません。スターに安っぽい印象を与え、中途半端でかわいそうなほどでした」

 そもそも国防省が掲げた芸能兵の主な任務は、「将兵たちの士気高揚および慰問」。ところが、韓国のオンライン調査会社DOOIT SURVEYが6月末に行ったアンケートでは、「芸能兵は士気高揚に役立ったか」という質問に対し、兵役経験者の71.5%が「いいえ」と回答。制度廃止には79%が賛成した。

 SUPER JUNIORファンのルミさん(40代)も、「芸能兵は生ぬるい印象があった」という。

「憧れるのは、つらい任務を堂々と志願する人たち。頑張っている彼らが除隊するまで、ファンとして温かく見守っていたいです」(文中、日本人のカタカナ名は仮名)

AERA 2013年8月26日号