新成長戦略として「女性の活躍」を目玉に掲げる安倍晋三首相。首相のもつ家族観は一貫しているが、それを実現するには当の「家族」はあまりに疲弊している。

 安倍首相が最初の首相就任直前に出版した『美しい国へ』。その中で、〈「お父さんとお母さんと子どもがいて、おじいちゃんもおばあちゃんも含めてみんな家族だ」という家族観と、「そういう家族が仲良く暮らすのが一番の幸せだ」という価値観は守り続けていくべきだと思う〉と書いている。

 安倍首相自身は、発達障害は幼少期の親の愛情が不足していたせいであり、女性は家庭で育児に専念せよ、と主張する「親学推進議員連盟」の会長を務めるなど、その家族観、女性観は一貫している。

 だが、現実の「家族」はすでに疲弊しきっている。

 都内に住むBさん(38)は10年間、パーキンソン病を患う母親を弟と2人で介護してきた。3年前に長女を出産してからは、仕事、介護に加え育児もこなしている。朝4時半に起床し、朝夕の食事を作ってから出勤。フルタイムの仕事を終え、娘を保育園に迎えに行って帰宅し、娘に夕食を食べさせると、自転車で10分ほどの距離に住む母親のもとへトイレや薬の介助に行く。一日で一息つけるのは、ニュースを見る夜9時までの15分間だけだ。

 一昨夏、ぜんそくを抱える娘が発作を起こして入院した。さらに叔母から「(母と)連絡がつかない」との電話が入った。母は自宅のトイレで倒れており、薬どころか、朝から水も飲んでいない状態だった。

「会社を辞めようかと考えましたが、娘を保育園に預けられなくなれば、どうやって介護をしていくのか。家のローンもあるのに、母の介護費用まで夫背負わせるわけにはいかない」

AERA 2013年6月24日号