5月下旬に大暴落した日経平均株価。市場は大騒ぎだったが、一方、その裏で世界の巨大ファンドの最高投資責任者(CIO)たちは、日本株の今後を見極めるべく、動いていた。ライターがその動きを追った。

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 いつになく上機嫌だった。

「年金支給開始年齢の引き上げ。やるよ」「消費増税、変わらず進む」

 6月初旬、財務省を訪ねた海外ヘッジファンドのトップたちと意見交換した麻生太郎財務相は饒舌だった。1時間を超える会合が終わり海外ファンドのCIOたちは、こんな感想を漏らした。

「よかったよ」「アベノミクスはまだ続くな」

 5月23日、順調に株価を上げてきた日本の株式市場は大暴落。朝方、1万5942円だった株価は、海外ヘッジファンドの株価指数先物への売り仕掛けで一気に1万4483円まで急落。結局、1143円という13年振りの大暴落となった。

 市場の動揺が続く6月2日、欧米とアジアを代表する巨大ファンドの面々が日本を訪れた。ソロス・ファンド・マネジメント、ムーア・キャピタル、SACキャピタル・アドバイザーズの創業者もしくはCIOたち。いずれも運用資産は1兆円を超える。

 世界最大の運用資産370兆円を誇るブラックロック、全米最大の年金基金で運用資産45兆円のTIAA-CREF(全米大学教職員退職年金基金)のCIOも来日した。顔をそろえたのは20人強。運用資産は合計500兆円を超す“トップ・オブ・ザ・ファンド”。その投資行動を決める責任者たちだ。狙いは、「日本はまだ買いか」、それを確かめるためだった。それから5日間、精力的に政財官界の要人と会談し、アベノミクス第3の矢「成長戦略」の概要をつかんだ。

「構造改革、規制緩和の流れは変わっていない。もう一度日本株は上昇する」

 彼らはそう結論づけた。6月7日、「ソロス・ファンド、日本株買い再開」との一部報道があったが、一笑に付した。

「CIOが東京にいるのに、誰が買うことを決めるのかい」

 週末、東京・六本木の高級料亭の一室。ワインを傾けながら彼らは語った。

「再出動は7月だな」
「昨年末の衆院選と同じパターンだろう」

 参院選でも自民党が圧勝し、成長戦略が着実に進めば年末に日経平均は2万円を超える。そんな2匹目のドジョウを狙っているのだ。そして続ける。

「ハートに火を付ける、その言葉で第2幕の幕が上がる」

 火を付ける言葉。来日したヘッジファンド首脳は、「全員の共通認識ではない」、そう断りながらささやく。「原発再稼働」と。

 ものづくり大国・日本――。その復活には「人、モノ(設備)、金」、そして技術力が不可欠だ。しかしそれは「安定・低価格のエネルギー供給」があればこそ。海外ファンドの彼らから見て「原発再稼働」は「日本復活」の必要条件なのだ。

AERA 2013年6月24日号