景気向上に向けて、期待が高まるアベノミクス。しかし、バブルを経験せずに社会に出た「不況ネイティブ」ともいえる世代にとっては、好景気は必ずしも消費につながるものでもないようだ。

 実際、マーケティングライターの牛窪恵さんは、20~30代の消費が活気づく様子はなかなか見えないと話す。

「彼らは、多少気分がよくなったとしても、せいぜい月数万円しか消費しない。社会保障制度などを充実させて将来への不安をなくさない限りは、不況ネイティブ世代が景気を動かすくらいの大きな消費をすることはないんじゃないでしょうか」

 若者の消費動向にくわしい博報堂若者生活研究室アナリストの原田曜平さんは、この世代の金回りが仮に良くなったとしても「手強い消費者」になると予想する。長引くデフレで、ほとんどの製品が「安かろう、そこそこ良かろう」になった。切り詰めて高級ブランドの服を買わなくてもH&Mで十分、という発想なのだという。

 アベノミクス後に7千万円を稼ぎ、現在の資産は1億7千万円という個人投資家のけむさん(37)も生活水準を上げるつもりはないと話す。年に2、3回行く海外旅行も往復の飛行機はエコノミークラス。ふだん飲みに行く店も「ふつうのダイニングや居酒屋」だ。意識的に生活水準を上げないようにしている。

「一度上げちゃうと稼げない時に落とせなくなってしまう。僕にとってお金は仕事の武器。バブルの時みたいに、無駄に散財するなんて、ありえない」

 原田さんによれば、SNSの浸透により、中学・高校時代の人間関係を保つことができるようになったこともこの傾向に拍車をかけているという。同級生の間ではわざわざ見えを張ることもないからだ。NPO「はたらぼ」理事の油谷弘太郎さん(24)は、「デートも割り勘だし趣味の本はAmazonで古本を1円で買う生活だけど、『LINE』とかでいろんな人とコミュニケーションを取ることで生活の満足度を上げていますね」と語る。

AERA 2013年5月6日・13日号