通貨の番人を自負する日銀。円の価値を守ることが使命で本能的にインフレを嫌う。だが新総裁の仕事はインフレ期待を起こすこと(撮影/写真部・岡田晃奈)
通貨の番人を自負する日銀。円の価値を守ることが使命で本能的にインフレを嫌う。だが新総裁の仕事はインフレ期待を起こすこと(撮影/写真部・岡田晃奈)

 安倍自民党総裁が大胆な金融緩和を唱え出した昨年11月下旬から、日経平均株価は30%上がり円安は15%進んだ。「デフレに効く」という特効薬が囃(はや)されているが、たちまちに景色が変わるのが市場だ。劇薬のアベノミクスの行く手にはいくつも地雷が埋まっている。

 そのひとつはスタグフレーション。不況下で物価が上がり続ける状態だ。新総裁の任務は「消費者物価2%上昇」。物価が上がりそうだ、と人々が考えればカネを使いだし物価が上がる。真っ先にカネが向かうのが供給が限られ値動きの激しい株や不動産、相場商品、資材などだろう。バブル経済で経験したように行き過ぎた金融緩和は資産インフレを起こす。うまく相場に乗った人は大儲けするが、庶民は固定資産税や相続税が上がる程度。むしろ円安で輸入品の値が上がり、暮らしは圧迫される。ガソリン、電気代、資材、食材などのコストが跳ね上がるので企業は人件費を抑える。給料が上がらず物価だけ上がるスタグフレーションの現実味が増している。

 二つ目の地雷は先に述べた「金利上昇リスク」。首尾よく物価が上がりだした時、きわどいことが起こる。金利も一緒に上がるのだ。消費者物価が2%上がると長期金利は2%超になるのがこれまでの経験だ。そうならないように市場を睨みながら金利上昇の芽を摘む職人技が求められる。

 物価上昇が金利上昇を誘発すれば国債価格が下落する。三つ目が金融機関の経営問題。日本国債を多く抱えているのが銀行や生命保険会社だ。今は指標となる10年物の国債金利は0.6%台という超低金利だが、長期金利が2%を超えると価格は大幅に下落する。厳しいのは、貸し出しを抑えて安全とされている国債を買っている地方の金融機関だ。国債価格の下落が、今でも厳しい経営を揺さぶることになる。

AERA 2013年3月11日号