東京・青山の一等地に立つ秩父宮ラグビー場。競技の人気低迷も相まって、特に社会人のトップリーグでは不入りが続いたが、今季は様相が変わりつつある。1人のスーパースターの加入のおかげだ。

 パナソニックのソニービル・ウィリアムズ(27)。ラグビー王国ニュージーランドの代表チーム「オールブラックス」で突破役として不動の地位を築き、その甘いマスクと型破りな生き方から、「最もセクシーなラグビー選手」と称される。サッカーでいえば、レアル・マドリードのMFクリスティアノ・ロナルドのような存在といっていい。

 日本では試合後、「時の人」見たさに出待ちの行列ができる。193センチ、108キロ。均整のとれた肉体に、試合中の激しい表情とは異なる涼しげな微笑をたたえ、一人ひとりにサインをする。即席の交流会を終え、拍手がわき上がると、サッと手を上げロッカーへ。そんな動きまで優雅に映るラグビー選手を見たのは、担当10年目で初めてだった。

 愛称は名前の頭文字をとって“SBW”。「断ることができない」ほどの好条件(海外メディアは12試合出場で120万米ドルなどと報道)が来日の決め手とされるが、日本のラグビーを下に見るでもなく、誠実に向き合っている。同僚で日本代表の山田章仁は、

「彼はシャイだけど、仲間の名前を早く覚えようと、よく僕に聞きにきた」

 と語る。試合に敗れ、「ファンの期待に応えたかった」と、悔しさに目を真っ赤に腫らしたこともあった。

 そんな彼の魅力をさらに輝かせているのが、ボクシングのヘビー級ニュージーランド王者という肩書だ。最初は練習の一環で取り入れたが、次第にのめり込み、戦績は5戦全勝(3KO)。競技の掛け持ちに批判の声はあるが、本人は意に介さない。

「リスクをとらないとリターンは得られない。得られるものが大きいからやる。シンプルな話だ」

 SBWが描く将来図。それはラグビーで更なる成功をつかむこと。そして、ボクシングの世界チャンピオンになることだ。

「夢は世界チャンピオンになること。クレージーに聞こえるかもしれないけど、大きな夢を持てば、一歩一歩進んでいける。神様は二つの才能をくれた。僕はそれに挑戦するだけだ」

AERA 2012年11月19日号