「人間って、目に見えるものとか、聞こえてくるものにとらわれすぎて、感情をぶらされてしまうんです。僕自身、いままで、いろんなものにとらわれてきたんですよ。たとえば、自分を批判する人とかの声もそうですし、うまくいかない壁のようなものが来たときに、感情がぶれる。そういうことを経験してきて、いまは、それにとらわれないようになった。30年生きてきて、これが人生だと自分で受け入れられるようになったんです。


 とらわれないようにしようと気づいたのは、イタリアに来て5年ぐらい経ってからです。いまは、つらい出来事でも1カ月もしたら、あるいは1年もしたら、笑い話にできる。それは、『先にいる自分をいま見る』という感覚ですかね。試合に出られないとかいろいろあっても、3年後、5年後の自分からいまを見たときには、まったくたいしたことないんですよ。そんなことでくよくよしたり、ネガティブに考える時間があるなら、もっと自分のやりたいこととか、ポジティブに考えてやったほうが先につながるよ、と未来の自分が言っているんです」

 それでも、跳ね返すためにはそれ相当のエネルギーが必要なはず。

「いや、跳ね返すというよりも、もう受け入れて、これが自分の道なんだ、これが自分の人生なんだと思えれば、別にどっちでもいいんです。怖いものがなくなるというか。ああ、ブーイングするならブーイングしろ、批判するなら批判してよ、と。これが確実に自分を成長させてくれるというのがわかるから受け入れられるんです」

 そして、長友はこう達観する。

「ケガして引退するなら、もう、そのときなんです。そのときが自分の引退の時期なんです。そこでネガティブな状況にとらわれるのはもったいない」

 長友の言葉から伝わってくるのは強いポジティブ感だ。生きていく力強さだ。それは、たとえて言うなら、苦しみや障害さえも好んで自身の糧とし、大きくなっていくような強靱さである。

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