たまに読者から聞かれることがある。

 書籍、雑誌、WEB――媒体を問わず、よく紙面には「当事者の声」が詳らかに載っている。この「声」とは、どうやって聞き出したのか。そして、そもそも、その「当事者」とはどのようにして見つけ出すのか――、と。

 そこで今回、拙著『友達以上、不倫未満』の舞台裏の一端を明かすことで大勢の読者が持つ疑問に応えてみたい。

 初めてこの新たなる男女交際の形の断片を見つけたのは、2010年夏のことである。当時、ある金融事案を追っていた。その動向を探るべく懇意の金融マン――ネタ元と大阪・北浜の小料理屋で酒を酌み交わしていたときのことだった。

 取材目的とはいえ酒席の場である。はじめは堅い金融動向の話だったが、勢い、話題は雑談へと変わっていく。

 ネタ元と記者という関係とはいえ、長年、プライベートでも懇意にしている仲である。男同士、酒席の場での話題は、「カネの話」か「女性の話」が鉄板ネタだ。

 この日は「女性の話」だった。彼が「あくまでも友人の話」として切り出したのが次のような話である。

 ――ある既婚の男がいた。夫婦仲は良くも悪くもない。その男は、SNSである既婚女性と趣味の話題で意気投合。

 その女性とは体の関係はないが、今では配偶者の「次」に位置する「セカンド・パートナー」とでもいうべき関係で、彼女のアシストがあるからこそ妻との関係は前にも増してよくなった。これが本当の「シナジー効果」だ――

 こうした「友人の話」の多くは「本人の話」とみていい。

 まずは、その「友人の話」としてじっくり話を聞くことにした。そして彼が話し終えた後、私は「いや、その話、私も似た話をどこかで聞いたことがあるような気がします」と実にいい加減かつ曖昧な相槌を打った。こう私が話せば、彼はさらに話を続けると思ったからだ。

 案の定、彼は、その「友人の話」を嬉々として続ける。話を続けるということは、これはもう本人の話と確信した。

 話が盛り上がったところで、私は静かに姿勢を正して彼の目をじっと見て、「これ、ご自身のお話ですよね。そうでしょう?」と言った。沈黙すること10秒あまり。私はさらに畳み込んだ。「そうですよね?」。彼は静かに頷いた。

 こうなるとまずほとんどの人が堰(せき)を切ったように話す。
 これをきっかけに、私は既婚者同士のプラトニックな恋愛について強い関心を持った。早速、取材に取り掛かった。

 多くの人は「自分の話」はなかなかしない。だが「他人の話」なら、不思議にペラペラと話すものである。

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