2015年度、第5回目を迎えた「紀伊國屋じんぶん大賞 読者と選ぶ人文書ベスト30」。2013年12月〜2014年11月に刊行された人文書を対象に、2014年11月5日〜12月5日までの期間に実施された読者からのアンケートによって、ベスト30が発表されました。



 そこで第4位に選ばれたのは、自身、本書が初めての邦訳となったイギリスの文化人類学者ティム・インゴルドさんによる『ラインズ 線の文化史』。



「歩くこと、織ること、観察すること、歌うこと、物語ること、描くこと、書くこと。これらに共通しているのは何か? それは、こうしたすべてが何らかのラインに沿って進行するということである」という言葉からはじまる本書は、人類学や考古学、音楽や建築学といった様々なジャンルを、幅広い知識をもって自在に横断しながら、線lineというものについて迫っていきます。



 線描画、書かれた文字、手相、地図、赤道、そして成長や運動の道筋といったものまで、この世界のあらゆるものは「線」、ラインが集まり、織り合うことで出来上がっているのだとインゴルドさんはいいます。



 そして、こうした多くのラインは「糸」と「軌跡」のどちらかに属しているのだというのです。



 たとえば、葉っぱの葉脈にみえる糸状のラインや、蜘蛛や蚕が体内から分泌する糸。あるいは、人間が繊維を撚ることによって紡ぎ出す糸。前者のように自然のなかに存在する糸であれ、後者のように人の手によってつくりだされた糸であれ、ラインの根源を辿っていくとき、糸という存在の重要性が浮かび上がってくるのだといいます。



 この糸について考えていくとき、本書では美術との関連も分析。美術史・建築史学者であるゴットフリート・ゼンパーの「繊維をつなぐ、撚り合わせる、結び目をつくるといった行為が人間の技芸のもっとも古いもののひとつであり、そこから建築や織物を含めた他のあらゆる技芸が派生した」という言葉を受け、インゴルドさんもまた「糸の制作と使用は人間特有の生活様式の出現を示す適切な指標であり、そこから衣服や網やテントといった決定的な技術革新がもたらされたのだろう」と考えはじめるところから、次々と思考が紡がれていきます。



 ラインという観点から世界をみてみるということ。そして本書自体もまた、著者の思考の道筋、ラインに読者が寄り添い、共に考えることのできる一冊となっています。