福島第一原発の事故から3年以上が経過した今日も、事故現場では収束作業が続けられています。汚染水の処理、廃炉作業、さらに福島第一原発周辺にとどまらない広範囲に及ぶ除染作業。いまだに自宅に戻れず、仮設住宅での生活を余儀なくされている方も多くいます。



 一方、原発事故は人々のつながりを破壊しました。放射線を巡る考え方、捉え方の相違により、人々が「分断」されてしまいました。特に事故直後は、それまで仲が良かった人同士が意見の違いから距離を置くようになった......という話もよく聞かれました。そしてその分断は、いまだに尾を引いています(時間とともに、その溝は浅くなっている気もしますが)



 放射線に関する正しい知識を、みんな持っていればあそこまでの分断は起こりえなかったかもしれません。ただ現実には、3年たった今でも、放射線に関する知識はさほど「共有」されていません。あれだけの事故があったにも関わらず、知識が共有されていないことは、非常に由々しき問題ではないでしょうか。



 今回、紹介する『いちから聞きたい放射線のほんとう』は、物理学者で大阪大学サイバーメディアセンター教授の菊池誠さんと福島県出身のミュージシャン・小峰公子さんによる放射線の基礎講座的内容の一冊。

 小峰さんの疑問に菊池さんが答えていくという対話形式で構成されており、全22のテーマ別に放射線についてわかりやすく解説されています。



 菊池さんは、原発事故直後からツイッターなどで科学者としての知見を発信してきました。正確に言えば、科学者が使いがちな専門用語を極力使わず、一般の人にもわかるような形で"翻訳"していました。

 また一貫して、危険を煽るような報道や世論に対しては、懐疑的な態度を取り続け、「正しく恐れる必要性」を訴えてきたのです。そのため、一部の先鋭化した"反原発派"からは御用学者とのレッテルを貼られてことも。それでも菊池さんは、信念を曲げませんでした。

 

 2012年の夏、菊池さんは週刊誌のインタビューにこう答えています。

「知識は力になります。難しいことはいらないので、基本的なところを少し勉強してみてほしい。放射能のリスクについても、危険か安全かの話の前に、まず放射線とはどういうものかを少し知る。遠回りに感じるかもしれませんが、それが役に立つと思います」(週刊プレイボーイ 2012年7月9日号より)



 本書の帯には漫画家のしりあがり寿さんが「これ中学校の教科書にした方がいいよ。ニッポンの場合。マジで。いやホント」と絶賛していますが、たしかに今からでも教科書にした方がいいかもしれません。もちろん中学生だけでなく、大人も読んでおくべき一冊です。





【関連リンク】

科学から見た反原発の問題点 菊池 誠「"御用"のレッテルで科学を殺すな」(週刊プレイボーイ 2012年7月9日号)

http://wpb.shueisha.co.jp/2012/07/03/12292/