撮影ポイントを見つけては立ち止まり、少しずつ撮影位置を変えては、愛用のソニー製デジタル一眼カメラ「α(アルファ)9」を構える。
有安杏果さんは、日本大学芸術学部写真学科で写真を学んだ。大学時代は、いろいろなカメラを使ったそうだが、有安さんの手に一番なじんだのが、現在使っているソニー製のカメラなのだそうだ。ライカ製のレンズをつけるのがお気に入りの組み合わせ。「自分の好きなボケた感じが出せるのと、色みの優しさが好き」とほほえむ。
アーティストとして各地でライブをする一方で、2019年から写真家としても活動を始めた有安さんと東京都内の神社仏閣を訪ねる企画「ももかアイズ」を紹介しよう。
第1回は東京都調布市にある創建1300年の古刹(こさつ)・深大寺。奈良時代の733(天平5)年に開かれたとされる天台宗の寺院だ。わき水が流れ、緑があふれる境内。
「都心から少し足を伸ばすだけで、こんなに自然に囲まれ、癒やされる場所があるんですね」
有安さんはこう目を輝かせる。

境内最古の建物である山門を抜けると、正面に、ふだんは非公開の本堂が見える。どっしりと構えた存在感のある造りで、幕末の火災で焼失後、1919(大正8)年に復興した。

今回は特別に、深大寺の学芸員、菱沼沙織さんの案内で、撮影が許可された。

本堂に入ると、天蓋(てんがい)の下で黄金に輝くご本尊の宝冠阿弥陀如来像(ほうかんあみだにょらいぞう)が有安さんを迎えた。ご本尊を際立たせる、きらびやかな装飾の美しさに目が留まった有安さんがすかさず近寄り、シャッターを切る。宝冠阿弥陀如来像は、栃木県日光市の輪王寺など、まつられている寺院は少ないという。

「如来」は出家後の釈迦(しゃか)の姿をモデルにしているため、大日如来を除き、装飾品を捨てた衣一枚に、小さくカールした螺髪(らほつ)と呼ばれる髪の毛の姿を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、深大寺の宝冠阿弥陀如来像は、引き締まった体に髪を結い上げ、その名の通り、宝冠をつけ、結跏趺坐(けっかふざ)する。菱沼さんがこう教えてくれた。
「天台宗の修行に常行三昧(じょうぎょうざんまい)というのがあります。阿弥陀仏の像のまわりを歩きながら、その名をたたえて、阿弥陀仏を念じます。このお像は当初、修行のご本尊としておまつりされていました」
面貌や衣文表現などの特徴から鎌倉時代前期の作風を示す。また、像内には室町時代の修理銘が記されている。
