■『ドウォーキン自伝』(A・ドウォーキン著 柴田裕之訳 青弓社)

選者:作家・比較文学者・小谷野敦

 ラディカル・フェミニスト、アンドレア・ドウォーキンの自伝だが、文学や藝術に惹かれる多感な少女時代と、崇拝の的だったアレン・ギンズバーグへの失望、結婚と夫の暴力などをへて、私たちの知るドウォーキンが形成されていったさまは実に興味深い。

 さらに、ヒラリー・クリントンが民主党の大統領候補になる10年も前に、ドウォーキンはクリントン夫妻を批判していた、そのことの価値が訳者の解説により鮮明になっている。

■『奴隷 小説・女工哀史1』(細井和喜蔵 岩波文庫)

選者:文芸評論家・斎藤美奈子

 作者はあの有名な『女工哀史』の著者。京都の丹後地方に生まれた少年が一念発起して家出、大阪の大工場の労働者として成長する姿を描いている。恋あり夢あり挫折あり。プロレタリア文学なのにエンターテイメントという稀有な青春小説だ。原著の発行は1926年。続編の『工場 小説・女工哀史2』ともども2018年に岩波文庫に入るまでは、幻の作品だった。読書の楽しみを再発見し、格差社会を生きる現代の若者たちにも勇気を与えるにちがいない。

週刊朝日  2023年6月2日号より抜粋