※写真はイメージです (GettyImages)
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 1951年から続いてきた「週刊朝日」の書評欄「週刊図書館」。本誌休刊を前に、執筆陣の方々が「次世代に遺したい一冊」を選出した。

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■『忘れられた日本人』(宮本常一 岩波文庫)

選者:詩人・小池昌代

 山に入る人のイメージに長く捕らわれてきた。日本語の文学の内には、古より、吸い込まれるように山道を行った老若男女の旅姿がある。宮本常一『忘れられた日本人』をあげる。土佐の山中の橋の下の乞食小屋で、来し方の女を語る盲目の元馬喰。奔放な旅を重ねた世間師たち。彼らは、意外にも個を際立たせ、行動においては強烈、荒々しく性的だが、霊妙な品格を感じさせる。こんな人間がいた。生きていた。そのことを知るだけで力となるような人々だ。

■『侍女の物語』(M・アトウッド著 斎藤英治訳 ハヤカワepi文庫)

選者:翻訳家・文芸評論家・鴻巣友季子

 アトウッドは「予言者」と言われてきた。『侍女の物語』を今ぜひ読んでほしい。キリスト教保守政党が一党独裁する管理社会を描いたディストピア小説だ。極端な男女隔離政策を敷いたその国では、深刻な少子化の原因は「女性の未婚、晩婚化」にあるとし、「侍女」たちが子産み機械として酷使される。LGBTへの迫害もひどい。本作が書かれた1985年にはこんなことがアメリカで起こるはずがないと言われたが、現実はどうだろう!

■『茨木のり子詩集』(茨木のり子 岩波文庫)

選者:ノンフィクション作家・後藤正治

 茨木のり子は多くの読者をもつ詩人である。第一詩集『対話』は29歳の時に刊行されているが、冒頭にあるのは「魂」で、最終連はこうある。「いまなお<私>を生きることのない/この国の若者のひとつの顔が/そこに/火をはらんだまま凍つている」。私はまだ<私>を生きていない。<私自身>であれ、裏返していえば<あなた自身>であれ──。それは終生、茨木の詩に通底して流れる問いかけであり続けた。だから故に、多くの読者をもち続けてきたのだろう。

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