撮影/戸嶋日菜乃 スタイリスト 坂上真一(白山事務所)/ヘアメイク 星野加奈子
撮影/戸嶋日菜乃 スタイリスト 坂上真一(白山事務所)/ヘアメイク 星野加奈子

是枝;演技は安藤さんと黒川君にお任せしていました。

安藤:でも、シーンによっては「万引き家族」の時よりも監督からすごく具体的な演出がありましたよ。「ホラー映画のようにここをこう撮る」というような感じで。しっかり違和感を出す、みたいな芝居? 足の裏についた毛を、殺人現場でドロドロした血を見たみたいに見るとか。「ここは超ホラー映画の感じで撮ろう」というシーンはすごく楽しんで演じました。

是枝:何が起きてるかわからない、でも何かが起きている、ということをわからせなくてはいけないから。ホラーというジャンルで考えたわけではありませんが、ポイントポイントで確実に早織の中で暗雲が立ち上がってくることがわかるように演出しました。

(c)2023「怪物」製作委員会
(c)2023「怪物」製作委員会

──お二人にとって「怪物」とは。

安藤:元々の怪物のイメージは、輪郭がはっきりしないイメージが作り上げるもの、モンスターという感じでした。自分のイマジネーションの中で恐れているものがどんどん大きくなっていったものですね。

是枝:早織が置かれてる状況を一言で表すと、疑心暗鬼。何かが起きているけど何だかわからない。疑う心が暗闇の中で鬼を見るわけです。でも、それは本当にいるわけではない。その対象が最初は息子の同級生・依里君だと思うんですが、次に保利先生になり、さらに、もしかしたら息子がいじめているのかもしれないと対象が移っていく。でも、どれも実体がない。それで多分、見ている人が早織に同化しながら見られるのではないか。そう思いながら撮りました。

安藤:できあがった映画を見ても私は怪物を見つけることはありませんでしたが、生きとし生けるもの全てが愛しく「しゃーないやん、人間なんだもの」と温かく、抱きしめたくなりました。今回またご一緒できて本当に良かったです。最高の時間を過ごせましたし、信頼が自分の表現のすごい力になることを知れたことは本当に大きい。監督については現場でこれだけメモしていたので(とスマホを見せる)、もし足りない部分があれば言ってください!(笑)

(構成/ライター・坂口さゆり)

週刊朝日  2023年5月26日号