自衛隊の部隊視察で10式戦車に乗車する岸田首相
自衛隊の部隊視察で10式戦車に乗車する岸田首相

 岸田文雄首相が突如として打ち出した1兆円の「防衛増税」に、波紋が広がっている。いくら防衛力強化が必要といっても、国民が疲弊してしまっては元も子もない。なりふり構わぬ防衛費の膨張の先に待つのは、いつか来た道なのか──。

【写真】12式地対艦誘導弾の発射装置がこちら

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 臨時国会が終わった途端、岸田文雄首相は唐突に「防衛増税」へと舵を切った。拙速に増税の方針を打ち出したことで、自民党内からも異論が噴出。党内では防衛費の増額は当面、国債で賄うべきとの声が強まっていた。

 高市早苗経済安全保障担当相は「総理の真意が理解できない」とツイッターに投稿。萩生田光一政調会長も「増税はさまざまな努力をした後の最後の手段だ」と批判した。もっとも、2023年春の統一地方選を前に国民に負担を強いる増税論議は避けたいとの意向が透ける。

 政府は12月16日、外交・防衛政策の基本方針である「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を改定し、閣議決定した。相手国のミサイル基地などを直接たたく敵基地攻撃能力の保有を明記するとともに、23年度から5年間の防衛費を現行計画の1.5倍以上となる43兆円とすることを盛り込んだ。27年度から年間11兆円とし、GDP(国内総生産)比2%に増額する。

 27年度時点で新たに約4兆円の財源が必要となるが、岸田首相はこのうち1兆円強を増税で捻出することを表明。対象となるのは、法人税、所得税、たばこ税の3税だ。

 岸田首相は「未来の世代に対する私たちの世代の責任だ。増税が目的ではなく、防衛力の強化が目的だ」と強調した。防衛増税について国政選挙で国民の信を問うこともなく、国会の審議も経ないまま決めたことへの批判に対しても、「1年以上にわたる丁寧なプロセスを経て決定した」などと反論した。立憲民主党代表代行の逢坂誠二衆院議員が厳しく批判する。

「日本にどのような防衛力が必要なのか。その中身の議論を全くせずに金額だけ先に決めて、増税か国債かを議論しています。通常の予算審議ではあり得ないことで、基本姿勢として“丁寧なプロセス”以前の話です。安全保障環境も変化していますから、防衛は確かに大事です。きちんと必要な議論を積み上げて、その結果として防衛費がこれだけ増えるということを、国民に説明できなければなりません」

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