空軍の訓練を指導する金正恩氏(朝鮮通信)
空軍の訓練を指導する金正恩氏(朝鮮通信)

 ロシアによるウクライナ侵攻で世界が急速に不安定化する中、ひときわ不気味な動きを見せるのが北朝鮮だ。今年に入ってこれまでにないペースでミサイルを発射し、核実験すら行いかねない動きを見せている。金正恩総書記の狙いとは──。

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 北朝鮮のミサイル乱発が止まらない。11月9日午後3時半過ぎには、弾道ミサイル1発を日本海に向けて発射した。北朝鮮によるミサイル発射は今年に入り実に32回目だ。

 2日には、1日だけで23発以上のミサイルを発射している。そのうち1発が、朝鮮戦争休戦後初めて海上軍事境界線のNLL(北方限界線)を越え、韓国北東部・束草(ソクチョ)の東方約57キロ沖合の公海に落下した。

 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は急遽(きゅうきょ)、国家安全保障会議を招集し、「実質的な領土侵犯だ。明らかな代償を払わせる厳正な対応を取る」と強く批判。すぐさま対抗措置として、韓国軍の戦闘機がNLL北側の公海に空対地ミサイル3発を撃ち込んだ。

 朝鮮半島上空では、10月31日から6日間にわたって、米韓両軍による合同軍事演習「ビジラント・ストーム」が実施されていた。韓国在住のジャーナリスト、裴淵弘(ベヨンホン)氏が説明する。

「在韓米軍の第7空軍から最新鋭ステルス戦闘機F35Bなど約100機、韓国空軍のF35Aなど約140機、合わせて約240機が参加しました。在日米軍岩国基地のF35Bも韓国の基地で初めて離着陸訓練を行い、最終日には米軍のB1B戦略爆撃機も飛来しました。これほど大規模な米韓の空軍合同演習は、2017年12月に実施された『ビジラント・エース(当時の名称)』以来です」

 大規模な軍事演習を行う背景には、北朝鮮への牽制という意図があるのだろう。実際、17年の米韓合同軍事演習後には、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(現・総書記)が態度を軟化させ、翌18年に韓国で行われた平昌(ピョンチャン)冬季五輪に実妹の与正氏ら代表団を派遣。その後の南北・米朝首脳会談の実現につながるなど融和ムードが広がった。

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