中江裕司監督(左)と沢田研二さん(c)2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会
中江裕司監督(左)と沢田研二さん(c)2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会

■やっぱり演技は1回目がいい

中江:出演者のお話をすると、主人公のツトムは年配の作家で、幼いころに京都の寺で修行しているという設定なんですね。モデルとなる水上勉さんはモテモテの文士ですから、演じる方に色気がないと映画が成立しない。京都出身の沢田さんなら京都弁にもなじみがあるだろうし、この役はもう沢田さんしかいないと、僕の恩師のようなプロデューサーのつてでお会いしました。沢田さんからは「僕で本当にいいのか、オーディションしてくれないか」と言われたんですが、逆に僕らがオーディションされる側だろうと思っていた。でもお会いすると「今の姿はこんなです」とメガネを外され、「これで本当にいいんですか。これでよければ、私としてはこの姿をさらす覚悟はあります」とおっしゃった。すごく誠実な方だなと思って、その場ですぐにお願いしました。沢田さんはすばらしかったですね。自分のほうに役を引き寄せてしまうというか、作家ツトムとしてそこにおられる感じで。だから、やっぱり1回目のテイクがいいんですよね。

土井:松たか子さんはものすごく役者やと思いましたね。ごまをすり鉢でするシーンがあって、「松さん、こういうふうにすってもらいますからね」と渡すと、如才なくできてしまう。でも、松さん演じるところの真知子というのは、そんなに料理上手やと困るでしょう。とはいえ下手に演じるいうのもくさいわけやないですか。それで、すりこぎはたぶん慣れない人はこんなふうに持つんやないかということでやってもらったり。

中江:えんえんごまをすらされるシーンで。ツトムと交代するときに肩を回して、だるかったーという表現をするんですけど、さすがだなと思いました。

土井:沢田さんも松さんも、普通に生活をちゃんとなさっているというバックボーンがある。きれいなものを見てきれいやと思える。おいしそうなものを見て、ああおいしそうと思えるということでないと、演技では感情は出てこないですよね。

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