さて吉永と大泉だが、初顔合わせは撮影開始の3カ月前となる6月下旬だった。

 初対面の場でも「吉永小百合さんからは僕は生まれない」と繰り返す大泉のトークに、吉永と山田監督は大笑い。すぐに、初対面とは思えない、まさに親子のような軽快な会話が始まった。その後、吉永は「本当の親子に少しでも近づけるように」と、大泉に幼少期から青年期くらいまでの写真をいただきたいとお願いしたという。

 ところで筆者は以前、山田監督・吉永主演の「おとうと」(08年公開)撮影現場で密着取材をしたことがある。

 撮影がひと段落して、セットの縁側で二人に座っていただいてインタビューすることに。その模様を撮影しようとしたカメラマンは、光量が足りないと感じたようだ。カメラマンの動きからそれと気づいた山田監督は、照明係りに目配せ。するとスタッフが動き出し、たちまち叙情的な明かりが縁側の二人を照らした。

 山田組一人ひとりの細やかな動きは、俳優たちのストレスを軽減し、心地よさを感じさせるのだろう。そのうえでの山田監督の演出だ。「おとうと」では、弟役の笑福亭鶴瓶ものびのびと演技をし、吉永と本当の姉弟のような関係が生まれた。

 大泉は今作の抱負として、

「役の重責に押しつぶされそうではありましたが、リハーサルで、山田監督の力強くも細やかな演出を受け、海より深い愛情を湛えた吉永さんの母親としてのお芝居を目にし、今は感謝と、喜びと、期待でいっぱいであります。吉永小百合さんから大泉洋は生まれないと思わせない山田監督の演出、吉永さんの演技。映画とは偉大だと改めて感動しております。今や私は吉永さんの息子としか思えません」

 とテンション高く語る。それを受けて吉永は、

「山田学校に再入学し、原点に戻って、監督の思いをしっかり受け止められるよう、努めます。大泉さんとは初めてなので、ちょっと心配でしたが、明るくて、優しくて、リハーサルのときから励まされています。素敵な親子になりたい……なります!」

 山田監督のもと、ニ人の間にどのようなケミストリーが起きるだろうか。

(本誌・菊地武顕)

※週刊朝日オリジナル記事