室井佑月・作家
室井佑月・作家

 作家の室井佑月氏は、メディアのふがいなさを指摘する。

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 6月24日の日本経済新聞に「広がる脅威の抑止に何が必要か議論を」という社説が載った。

「ロシアのウクライナ侵攻を受け、国民の間で安全保障への関心がかつてなく高まっている。参院選を日本にふさわしい防衛力のあり方を真剣に考える機会にしたい」

 という文からはじまる。「各党は脅威を効果的に抑止するために何が必要か意見を戦わせ、丁寧に説明すべきだ」

 とも書かれている。丁寧に説明すべきはメディアもだ。

 おなじく24日の日経新聞に、「物価高 高齢層ほど痛み」「食費・光熱費 割合大きく」という記事もあった。

 4月の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合指数が前年同月比で2.1%上がった(記事には書かれてなかったが、生鮮食品は12%超えの値上がり)。

「高齢層は収入が限られるうえに、支出に占める食費や光熱費の割合が大きい」

 だから、不安になっていると。

 これも記事には書かれていなかったが、現在、お年寄り世帯の4世帯に1世帯が貧困だ。

 そんな中、日本に「ふさわしい」防衛力とやらはいったいどういうものなのか? メディアは今の日本の困窮者の現状に絡め、そこを書くべきだ。

 この国の財布は一つ。防衛費も社会保障費も、あたしたちの税金から成っている。ほんとうに政府与党である自民党の公約、「GDP比2%以上も念頭に防衛力を強化させる」ということがこの国にふさわしいのか?

 政治家に丁寧に説明すべきだ、というだけなら誰にもできよう。逆にあたしはそういった発言をただくり返す各メディアが、実際、どう考えているのか知りたい。

 22年度の防衛費がGDP比約1%で約5兆4千億円であるから、その倍は10兆8千億円。予算からなにが削られるか。税金が上がるに違いない。

 岸田首相はそこの部分を曖昧(あいまい)に誤魔化(ごまか)しているけど、あたしたちのためになぜいちばん大切なそこの部分を聞いて来られない? それは自民党だけではなく、各党に対してもおなじだ。「自衛のための打撃力」とか、「着実な安全保障」とか、「防衛力の質向上」とか、「戦争をさせない外交努力」とか、だからそれはどういうものなのか。外交というからには、どういった国とどういったルートを使ってのやりとりがあり、今後どうしていくのか。敵対しそうな国、力を合わせたい国に対し、それぞれどういうビジョンを持っているのか。

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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