日本ポラロイドやカルティエ・ジャパンなど外資系企業の社長を歴任した実業家、大伴昭さん(享年89)と“おしどり夫婦”として知られた芳村真理さん。10年間の介護の末、2018年に夫を看取った思いは、今も“過程”にあるという。

【図表】介護、お金、墓など、いつかくる夫婦じまいのために、伴侶と話しておきたい55のこと

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 夫が亡くなってから、もう3年半も経つなんて早いものね。最近になってやっと、夫との思い出が詰まったものを見て「懐かしいな」と思えるようになりました。

 家中に夫との思い出が詰まっているから、夫が亡くなってから最初の1~2年はとにかくつらかった。50年間も一緒にいて、「なんでも一緒」が当たり前の夫婦だったので、夫がいない現実に慣れるまでは本当にしんどかったです。外資系企業の社長を歴任し、ビジネスマンとして世界各国を飛び回っていた夫は、妻の私から見てもスマートでかっこよく、頼りがいのある男性でした。出張も多い人だったので、亡くなってからしばらくは、どこか海外にでも行っているような感覚で、「そろそろ帰ってくるかしら」という気分がなかなか抜けなくて。その度に、「あ、もう帰ってくることはないんだ」って足元が崩れるような気持ちになるのね。

「亡くなったんだから仕方がない」と思えるようになったのは、夫の死から3年経ってから。どうやったって、やっぱり3年はかかるものなのね。それまでは夫との思い出があるものは、とても触れられなかった。

 例えば、音楽。夫は大の音楽好きで、家ではいつも音楽を流していたので、思い出の曲がたくさんあるの。夫の死後、音がなくてシーンとした空間は居心地が悪いんだけれど、音楽を聴くと涙が止まらなくなるから、しばらくは無音で暮らしていました。庭で育てている山椒も、「佃煮にしたらパパが喜んで食べてたな」なんて思い出すから、とてもつらくて収穫できなかったり。

 今はようやく、季節の巡りを感じられる余裕が出てきました。無理に遺品を整理したり、思い出の場所に足を運んだりしなくていいと思うの。時間が癒やしてくれる部分は大きいし、無理に何かしようと思わなくても、じっと過ごしているうちに、少しずつ気持ちの変化が出てくるということで十分だと思います。

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