コロナ禍は私たちの生活を大きく変えた。とりわけ変化したのはコミュニケーションのあり方だ。リモート、つまりオンラインによるコミュニケーションが急速に普及した。『リモート経済の衝撃』を最近著した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さん(81)は、「高齢者こそリモート化の恩恵を最も受ける」と力説する。
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東京都の調査によると、3月の都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は62.5%だったが、緊急事態宣言が明けても、この数値は下がっていない。
野口さんは「コロナが終息してもリモートの波は収まらない」と断言する。
「日本では多くの人がリモートワークをコロナ禍での一時的な現象と考えていますが、そうではありません。リモートはリアルの代替というより、活動可能性の拡張だからです。コロナ後にはリモートが“ニューノーマル”となり、新しい社会をつくるでしょう」
野口さんは、さらに「その恩恵を最も受けるのは高齢者」だと強調する。
「高齢者ほど移動が面倒になるわけで、移動せずにいろいろなことができるリモートはありがたい技術のはずです。しかし、実際は高齢者ほどリモートを敵視する人が多い」
野口さんによると、人間はどうしても自分より後に生まれたものに対し、潜在的に敵意を持つ傾向がある。特に自らが成人して以降に生まれた技術に対してその傾向が顕著だ。高齢者にITアレルギーが多いのもそのためだと考えられるという。
野口さん自身はリモートを味方につけて大いに楽しんでいると話す。
コロナ前には、高校時代のクラスメートたちと集まる交流会を月に1回ほどしていた。それがコロナ禍になり、外出自粛や飲食店などの利用制限下で2週間に1回になったという。
「リモートのおかげです。時間を合わせて1カ所に集まるよりも、リモートのほうが参加しやすいからです。おまけに、高校卒業以来会っていなかった友人もリモートならということで参加でき、60年ぶりに会えました。“コロナ禍でかわいい孫や子供に会えない”と嘆く高齢者の声を多く聞きましたが、Zoomなどを使えば解決できることを、私は声を大にして言いたいのです」