ゼレンスキー氏のオンライン演説の様子
ゼレンスキー氏のオンライン演説の様子

 フランス議会ではロシア軍の無差別攻撃によりウクライナの国土が「ベルダンのようになっている」と、第1次世界大戦で独仏両軍合わせて約70万人の死傷者を出した激戦地の名前を出した。

 ウクライナの最大の支援国ともいえる米国での議会演説では、「パールハーバーを思い出してください。1941年12月7日の恐ろしい朝」「9月11日を思い出してください。2001年の恐ろしい日」と過去に米国が攻撃された歴史を語った。その後、日本の衆議院議員会館でのオンライン演説では、「大惨事が起きた原子力発電所を想像してみてください」「サリンを使った攻撃が起きる可能性がある」「残忍な侵略の津波を止める」など、日本人が思わず身構えるキーワードをちりばめ、日本の国会議員たちはこれにスタンディングオベーションで応えた。

 ゼレンスキー大統領の演説にはどのようなテクニックがあるのか、スピーチライターの蔭山洋介氏はこう解説する。

「演説の目的は共感を引き出して聴衆と一体化すること。その方法はいくつかありますが、ゼレンスキー大統領の演説では、3・11や9・11など共通の歴史や、思い入れのある地名を挙げ、私たちは同じであると強調しています。もうひとつよく使われるのが共通の敵を作る方法ですが、これはスティーブ・ジョブズ氏が得意とし、ライバルのIBMを『悪の帝国』に例えたこともありました。今回のゼレンスキー氏の場合はロシアが『悪の帝国』なわけですが、その点については抑制的です。おそらく今更強調する必要がないと考えていることと、講和のために単なる悪口を言わないようにしているからだろうと思います」

 ゼレンスキー大統領の演説には、明日からスピーチで使えるようなテクニックもあるという。

「引用が上手なのです。アメリカ議会でキング牧師の名言『I have a dream』を引用したのですが、そのまま使うのではなく、『I have a need(私には必要なものがある)』と、引用に自分の言葉をかぶせています。これだけでだいぶ良くなります」(蔭山氏)

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